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多くの殺処分を乗り越え『ゼロ』達成した動物愛護センター 職員の言葉に考えさせられる

By - いとう舞香  公開:  更新:

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日本では全国のペットショップで生体販売が行われている一方で、多くの保護動物が新しい飼い主との出会いを待っています。

しかし、飼い主と出会えない動物たちは、譲渡先が見つからないまま収容数が上限に達した場合などに『処分』されてしまうのです。

環境省によると、2019年度の殺処分数は、全国で犬が5,635匹、猫は27,108匹。

およそ10年前は、犬猫合わせておよそ40万匹もの命が奪われていたため、殺処分数は徐々に減ってきています。

それでも、今なお多くの動物が『処分』されているのです。

神奈川県動物愛護センター外観

神奈川県平塚市の自然豊かな場所に建っている神奈川県動物愛護センターは、2014年度から、2021年12月現在まで、犬猫の殺処分ゼロを維持し続けています。

2019年に『動物を処分するための施設』から『生かすための施設』となり、名称が『神奈川県動物愛護センター』に変更された、同施設。

愛護・指導課の課長である廣井惠津子さんに施設を案内していただき、譲渡や殺処分について、そして職員の想いについてお話をうかがいました。

廣井惠津子さん

【廣井 惠津子(ひろい・えつこ)】

2021年4月から、『神奈川県動物愛護センター』の愛護・指導課の課長に。
獣医師の資格も所持しており、このセンターで暮らす動物たちの管理をしている。

『殺処分ゼロ』維持を目指す、神奈川県動物愛護センターの想い

のどかな立地に建っている、神奈川県動物愛護センター。2019年に建て直された新築の本館は、ガラス張りの部屋や窓が多く、開放的な雰囲気です。

旧センターは取り壊され、現在は収容された犬の運動場に。災害時は迷子の動物が増えるため、その対応にも使用されるといいます。

いとう

本日はお忙しい中ありがとうございます!
動物愛護センターって、行政の管轄ということもあって「堅苦しそう」「近寄りがたい」という印象を持つ人が多いそうですが、そういったイメージとは正反対で驚きました!

廣井さん

窓を多く設置することで、外からよく内部が見えて、自然の光が入って明るい印象を与えるなど「親しみを持ってもらえるように」という想いを込めて建築されたんですよ!
旧センターの時代は収容された動物も地下にいて。当時は殺処分も多かったですし、印象が変わったと思います。

いとう

入りやすい雰囲気を作ることで、より多くの人が足を運んでくれるといいですよね。
まず、よく耳にする疑問についてお聞きしたいのですが、動物愛護センターと保健所の違いってなんなのでしょうか?

廣井さん

保健所は一時的に犬猫を預かる設備しかないので、その後は動物愛護センターに運ばれてきます。
保健所は飼い主への指導といった相談の窓口で、動物愛護センターは収容動物の適切な管理をして、譲渡をしていく…という役割分担ですね。

開放感のある広い入口には、職員たちのいる受付が

ガラス張りが多く、動物たちの姿を見ることができる

ガラス越しにあいさつをしてくる猫も

廣井さん

来てくださった人に「ここならいい環境だから、動物がずっといても安心ね!」っていわれることがあるんですけど、「いやいやいや!(笑)」って。
新しい飼い主さんにずっとかわいがってもらうのが動物たちの幸せであって、私たちの目標なんです!

そんな中、入り口から聞こえてきたのは笑い声。このセンターから『卒業』していった犬と、その飼い主が、笑顔で職員たちと触れ合っていました。

飼い主さんによると、犬の新しい名前は『チャンス』。素敵な家族と出会うことができたこの子は、その名の通りチャンスをつかんだのでしょう。

職員たちも「いい名前をもらったね!」と大喜び

人懐っこく、カメラにも興味しんしん!

掲示板には、飼い主が投稿した近況報告も

「卒業おめでとう!」

いとう

たくさんの動物を扱っていて、管理や維持がとても大変そうに感じるのですが、正直な話、運営資金は大丈夫なのでしょうか…。
行政の管轄でも、県内の人や県外の人が支援をすることって可能なんですか?

廣井さん

法律に基づいて税金で運営しているんですが、ドッグトレーナーの指導や病気の治療といった、譲渡を進めるための費用は寄付金でまかなっています。
県外の方の場合は、ふるさと納税で『かながわペットのいのち基金』の使い道を選択していただけますと、とても助かります!

保護された動物たちはまず一定期間、検疫室で健康状態や病気の有無をチェックされます。

その後、去勢・避妊手術を受け、トリミングで体をきれいにしたら、2階の部屋で新しい飼い主を待つことになるのです。

2階にあるガラス張りのトリミングルーム

最初は毛が伸びていた犬も…

すっかりキレイに!

廣井さん

実はここはちょっと特殊で、県の条例で「『その他の小動物』も取り扱います」とされているので、犬や猫だけでなく、ウサギやモルモット、カメ、ニワトリも扱っているんですよ!

ウサギやモルモットがいる部屋

建物の外にある、ニワトリとカメの小屋

廣井さん

カメは警察に届いて保護された子が多いんですが、たまに飼い主さんが「この子…いなくなったうちの子です!」って来て、返還することもあるんです。
同じような見た目の子がたくさんいても、やっぱり飼い主さんには自分の子が分かるんですね。

保護動物には、人間によって心を傷付けられてしまった子が多く存在します。そのため、保護動物に対して「懐きづらそう」「気難しい子が多いのかも」という印象を持つ人もいるでしょう。

このセンターで暮らす動物たちの譲渡について、廣井さんはこう話します。

廣井さん

多頭飼育崩壊で保護されて来た動物の場合、まだ人馴れしていない子も多いんですよ。
でも、「この子大丈夫かな?」と心配していた動物が、面談の時に自分から新しい飼い主さんに近寄っていくこともあって!
お互いに選び、選ばれるというか…きっと、ひかれ合う何かがあるんでしょうね。

いとう

えー!そんな運命的な出会いがあるなんて素敵ですね…!
ちなみに譲渡というのは、どういった流れで行われるものなんですか?

廣井さん

まずは『わん・にゃん教室』という講習で30分の動画を見て、飼育に必要な情報を知っていただきます。
その後、気になった子がいたら個別面接をして、問題なければ次回にお譲り…という流れですね。
原則3回はここに来てもらう必要があったんですけど、コロナ禍を受けてオンライン講習を導入したので、2回の来訪でもOKになりました。

いとう

最初の講習がオンラインで可能となると、さらに敷居が低くなりそうです!
確か、神奈川県動物愛護センターはオンライン譲渡会も開催してるんですよね。

廣井さん

はい、今年から本格的に開催し始めました。ご自宅から、動物の様子をゆっくり見ることができるんですよ。
個別に質問ができるzoom形式だけでなく、気軽に見られるYouTube形式もあります。2021年12月4日には第3回の開催を予定しています。

犬や猫といったペットとして定番の動物だけでなく、ニワトリやカメも扱っている神奈川県動物愛護センター。ここで気になるのは、動物を譲り受ける条件です。

ネットでは保護動物を迎え入れるということについて、「条件が厳しい」という声も。しかし、動物愛護センターの条件はちょっぴり意外なものでした!

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