ウォーリー木下x吉田尚記対談 ノンバーバルを始めたのは「脚本が書けなくなったから」

突然ですが、『ノンバーバル』という言葉はご存知ですか。これは主に、言葉を使わずに行うパフォーマンスのことを示し、最近注目されているジャンルです。

言葉を使わない代わりに、マイム(無言劇)やダンスなどの身体表現を駆使するパフォーマンス。その魅力を探るべく、ニッポン放送の吉田尚記アナウンサーが、長年『ノンバーバル』の演出を手がけ、2017年7月1日から、手塚治虫のSF作「W3(ワンダースリー)」をベースにしたノンバーバル舞台『Amazing Performance W3』の公演を控えている、演出家・ウォーリー木下さんを迎えて、ノンバーバルの魅力、そして可能性について熱い談義を繰り広げました。

ノンバーバルを始めたのは「脚本が書けなくなったから」

吉田 根本の話。僕らが小学校で演劇をやることになると、台本があって、講堂とか体育館の舞台で、上手と下手に分かれて「こう!」というのが普通の演劇に対するイメージだと。そのクオリティを上げると劇団四季のようになる…それが一般のイメージだと思うんです。少なくとも『ノンバーバル』をやったことがあるという人はいないと思いますが、『ノンバーバル』って、ストレートに言うと…なんですか?

木下 それには、ノンバーバルをはじめたキッカケを先にしゃべると分かるかもしれないです。戯曲(舞台で演じられることを意図して書かれた文芸作品)を自分で書いて演出をするという劇団をやっていて、脚本が書けなくなったんですよ。

「もうツラい」と思って。単純にスランプなのか枯渇したのかわからないですけど、書くのがしんどくなって。

それで「無理して戯曲をもとに作品を作るのはやめよう」と思うようになったんです。そのキッカケは、神戸で「短編演劇祭」というフェスティバルでした。僕が好きな人たちをたくさん呼んで、それをずっと客席で見てたんですね。その時「台詞をしゃべることって、意外と少ない」ってことに気付いたんです。

音楽の人もダンスの人も、いわゆる大道芸人の人もしゃべらない。戯曲自体が、かなり限定的な表現なんだなって気づいて、違うアプローチをしてみようと思ったんです。

即興劇みたいなものをやっていくうちに、台詞と台詞の『間』が面白くなってきたんです。そうしたらいつの間にか、いっさいしゃべらない芝居を作ったりしてたんですね。

なので、僕の中で『ノンバーバル』っていうのは、バーバル(言語的な)の反対側ではなく、バーバルの『間』の部分だけを凝縮して作っていった結果…というような感じです。

吉田 バーバルの『間』を凝縮したんですね!そういえば、しゃべらない時って、なんにも考えてないですよね(笑)走っている時しか考えないというか。

木下 だから稽古場はうるさいんですよ。本番しゃべれないから、稽古場だけでも考えなくちゃと思って。

『オリンピックの開会式』もノンバーバル

吉田 『ノンバーバル』ってなんだろうって考えていたんですけど、オリンピックの開会式って基本ノンバーバルですよね。

木下 確かに!僕、フィリップ・ジャンティというフランスの演出家が大好きなんですけど、彼は以前、冬季オリンピックの開会式をやったことがある人なんです。

吉田 開会式は、世界中の人たちが分からなきゃいけないから、言葉に頼らないようにしているんですよね。その中で街の国の物語や歴史を描いている。

木下 そうですね。『ワンダースリー』は、それを小劇場でキャパ250の所でやる、というイメージですね。

吉田 贅沢ですね!

木下 そう。贅沢だと思うんですよ。プロジェクションマッピングが真ん中にあって、そこにマイムとマジックをガッツリ入ることによって、不思議な感じがする。「どうなってるんだろう?」ということが舞台上にたくさん起こるようになってます。

吉田 まさに「ワンダー」ですね!

木下 ですね!『ワンダースリー』って、まずタイトルがいいですよね。実はノンバーバルをやることが先に決まっていて、「手塚作品でやる」と決まったのはその後なんです。

手塚プロから「ワンダースリーでやらないか」と提案されたんです。そこで漫画を手にとってみて、タイトルと3人の宇宙人と主役をモチーフにしたら、なんか面白いことができそうだなと思ったんです。

吉田 台詞はまったくないんですか?

木下 誰もしゃべらないんですけど、『ジブリッシュ』っていう宇宙語はたくさん使います。簡単に言うと、シルク・ド・ソレイユのクラウンの人が使っている『アヒルの様な音』のことです。でも通訳をするのはオープニングとエンディングだけ。それだけで、大体のストーリーは伝わると思います。

でも複雑なストーリーは描けないので、「3人の宇宙人が地球の偵察に来て、地球が良い星か悪い星かというのを調べる時に、主人公の男の子と出会い、色んな事件に巻き込まれるうちに、彼らの心が変わっていく」という部分はオリジナルと一緒です。しかし原作にある細かい設定は、演劇には入れていないです。

ノンバーバルは、テーマパークのアトラクション

吉田 『ワンダースリー』では、言葉じゃないモノでスゴいことをしてみよう、という感じですね。

木下 演劇は普段、言葉の骨格が物語や意味を作って、役者さんはそれをベースに役柄を演じて、感情を表現していきます。

でも、それより骨組みの外側に塗る色だったり、その上に全然骨組みが見えないくらいの何かをつけてみようという試みがしたいんですよ。結構邪道だって思われるんですけどね。

吉田 それは文字がメインのメディアのせいでしかないと思うんです。ネットの時代になったけれど、基本的にテキスト情報のやりとりしかしてない。

でもやっと今、YouTubeなどが人気になって、映像というメディアがドカンと来ています。だから、ノンバーバルの時代に来ていると思うんですよね。そこで今回はノンバーバルという手法で、演劇と同じような『衝撃』を伝えたいんですね。

木下 僕がよく言うのは「劇場を出た後に、景色が変わっている」ようなことがしたいということ。例えば良い音楽に出会った時に、そういう感覚になるので、それと同じことができるように作っています。

吉田 そういえば昔、浅沼晋太郎さんと何度か対談したことがあるんですけど、彼は「演劇に意味を求めないで、エンターテインメントだと思ってもらいたい」と言ってました。例えばジェットコースターに乗る時に「このジェットコースターは怒りを表現しています」なんて言わないじゃないですか。

それと同じで、演劇でも客席に座って衝撃を受けて帰ってほしいと。ジェットコースターに乗った後って、テンション上がってて、世の中の見え方変わってくるから。あと、アトラクション評論家っていないじゃないですか。単純に面白いから、アトラクションは評論の域を越えてるんですね。

木下 その通りですね。文脈とか歴史とかみたいなものを一時期すごく大事にしすぎていたのかもしれない。それこそ『評論家の時代』があった気がするんですよ。観客が事前にパンフレットを読んだり、ネットで勉強してから行くことが良いという風潮とか。

でも、パンフレットや事前情報がないと楽しめないものは、たまたま来た外国のお客さんには分かりにくいですよね。そういう意味でも、手塚治虫でノンバーバルをやれば、そんな方たちにも楽しんでもらえるんじゃないかな、と思ってます。

吉田 じゃあ手塚治虫ランドが仮にあったとしたら、『ワンダースリー』というアトラクションを作るっていう感じですね。

木下 そうですね。観に来た人は、ストーリーが分からなくてもいいですからね。

小道具が主人公

吉田 さっき稽古を拝見して「主人公、小道具だよな」って思ったんですよ。

木下 実は『ワンダースリー』という題材が決まる前から、小道具を主人公にしたいって思っていたんですよ。モノが勝手に動き出してしゃべって、命を持つって、ある種、日本的だと思うんです。

アニメーションってもともとアニミズムと言って、命を吹き込むという意味が込められています。演劇自体もそういうものだと思っています。

八百万神(やおよろずのかみ)みたいな、自分たちが生活している何かを人物化する感覚が好きなんです。そんな考えがベースになっている作品を作ってみたいなって、前から思っていたんです。あと、役者さんもそういう『モノの1つ』として使いたいというのもあったんです。

吉田 ではちょっと失礼な言い方かもしれないですけど、『役者さん』と『モノ』って、ワンダースリーでは同列、ということですか。

木下 『ワンダースリー』では、アニメも役者も同列にするようなものができるといいな、と思いながら作っています。混沌とした1つの世界だけど、アニメも携帯電話もタンブラーも役者も、その世界をつくるための存在としてあるんです。

吉田 ワンダースリーではアニメも使っていますが、アニメって作るのに時間がかかるじゃないですか。すでに発注済みですか。

木下 アニメのシーンだけ最初に作りました。そこだけプロット(物語のあらすじ)細かく作って。

吉田 それが礎になってるんですね。それを作る時に、今のコンセプトって完全にできてないとアニメの場合はできないですよね。

木下 プロジェクションマッピングで使われることを前提に作ってもらっているので、アニメが使われているシーンでは、アニメーターに役者などの表情や動きを詳しく説明して、それに合わせたアニメを作ってもらっています。

吉田 さっきの稽古でテーブルの上で位置を確認してましたよね。

木下 それです。テーブルを立てて、テーブルにアニメ映像を投影して、そこでストーリーを展開させる感じです。

吉田 小道具が主人公なので、主役の人にかっこいいシーンに感動してもらうのではなくて、誰もいない舞台の真ん中にコップが落ちてくるのが、一番の感動シーン…というイメージでしょうか。

木下 そう。それがやりたいですね。そういうのができたらカッコいいなって思ってます。

吉田 できそうですか。

木下 できると思います。あと、小道具を主役にすることによって、「自分にとって美があるものが決して世の中にとって美があるものではない」ということを伝えたいです。

『ワンダースリー』のストーリーでもそのような描写があります。銀河連盟から見たら、地球なんて野蛮で低俗な星なんだけど、地球の中では、真一(主人公の漫画家)みたいな男からしたら村の偉い人たちは野蛮で低俗に感じています。

それはモノや小道具に対してもそうかもしれない。存在って、ずっと不安定だと思うんですよ。その不安定なものが肯定できればいいなと思って作っています。結果、観た人が不安定な気分になったら、より楽しいなと思いますね。

吉田 お客さんの視点が動いちゃったらいいなってことですよね。視点をずらしちゃいけないって思っている人、多いですよね。

ドッキリに仕掛けられに来たつもりで

吉田 あとこの演劇では、ドッキリさせたいんじゃないかなって思うんですが、「ドッキリをかけられに来てください」って言い切っても良いんですか?

木下 ワンダースリーって、まさにそういう意味を込めています。「3分に1回ドッキリがある」ということです。

吉田 ドッキリする作風として、日常のモノでドッキリさせます、という感じですよね。

木下 お客さんのほとんどが気づくんだけど「もしかしたら、あのドッキリに気付いているのは自分だけかもしれない」と思ってくれたらいいなと思っていて。歌詞とか小説とかも「自分だけしか気付いてないぞ」っていうことがあるじゃないですか。

そういう作品になるといいなと思いますね。終わった後に話したり、感想戦をしてほしいですね。

手塚治虫生誕90周年記念 Amazing Performance W3

宇宙初公演:2017年7月1日(土)~7月9日(日)
場所:DDD青山クロスシアター
一般発売:2017年4月23日(日)
料金:6,500円(全席指定・税込) ※未就学児入場不可
チケット絶賛発売中

取材協力
ニッポン放送 

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