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地元の子ども達にとって『いつも指導してくれるおじさん』だった人が、数年後?

By - grape編集部  公開:  更新:

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みなさんはパラアイスホッケーという競技を知っていますか。

地上波では放送されることは滅多にないため「名前も知らない」という人も多いでしょう。

しかし、実際に見てみると、その迫力やゲームとしての面白さに驚かされます。

「こんなに激しいスポーツなんて知らなかった…」

2021年、テレビで偶然観た車いすバスケットボールの面白さに魅了され、パラスポーツに興味を持っているつもりだったgrape編集長。

無知な自分に失望しつつ、とある企業の紹介で、パラアイスホッケーのトップ選手と代表コーチに話を聞くことができました。

障がいを持たない人も一緒にプレーできる!

インタビューに応じてくれたのは、日本代表のエースとして活躍する熊谷昌治(くまがい・まさはる)さんと、日本代表のアシスタントコーチとして活動する町井清(まちい・きよし)さん

公式戦が近いということもあり、実際にお会いすることは断念。zoomでのインタビューに協力してもらいました。

※写真左=町井清さん、写真右=熊谷昌治さん

――早速ですが、パラアイスホッケーについて教えてください。

町井コーチ

リンクの広さやゴールのサイズ、人数など「基本的にはアイスホッケーと同じ」ですよ。
※人数…氷上にゴールキーパーを含む6人ずつ

町井コーチ

違うのは、スレッジと呼ばれるそりを使うこと。
そして、2本のスティックを使って、移動したり、ゴム製のパックを操作したりすることです。
※パック…サッカーのボールに当たるもの

※写真左=スレッジ、写真右=スティック

アイスホッケーは1本のスティックを両手で操作し、パックを相手ゴールに入れることを目指します。プレイヤーの移動は、スケートシューズを履いた足。

一方のパラアイスホッケーは、パックの操作を行うだけでなく、スティックを使いオールをこぐようなイメージでスレッジを移動させます。そのため1本ではなく、2本のスティックが必要なのです。

熊谷選手

基本的に、パラアイスホッケーは下肢に障がいを持つ人がプレーします。
人によって障がいは異なるため、例えば、体幹が使えない人はスレッジのバケット部分(座面)を加工し、体幹を固定するなどしてプレーします。

また、パラアイスホッケーは障がいを持つ人だけの競技ではないといいます。

障がいを持たない人もプレーできる、稀有なパラスポーツとのことですが…。

熊谷選手

障がいを持たない人が数人所属しているチームもあります。
ただ、国際大会では、出場資格がないため、あくまでも国内の大会のみにエントリーしていますね。

迫力・攻守の切替・スピード・駆け引き!

――初めて見る人に「ここが面白い!」という魅力を教えてください。

町井コーチ

選手同士がぶつかり合う迫力、攻守の切替の速さ、そして選手やパックのスピード。
この3つがパラアイスホッケーの醍醐味だと思います!

ただ、初心者にはパックが速すぎて目で追えません…。

町井コーチ

経験者だと、選手の身体の向きや態勢で、どこにパックがあるかが分かりますが、慣れていない方には難しいかもしれません(笑)。
とはいえ、目にも止まらぬスピード感は感じていただけると思いますよ。

一方、熊谷さんは選手ならではの視点で、パラアイスホッケーの魅力を語ってくれました。

熊谷選手

「相手をだます」というと聞こえは悪いですが、相手との駆け引きはプレーしていて面白いところ。
パワーやスピードはもちろんですが、「相手の逆をつくプレー」にも注目してほしいですね。

さらにパラアイスホッケーには、さまざまな障がいを持つ人がプレーしているからこその面白さも!

例えば、両足のないプレイヤーが、その小さい身体を逆手にとって、相手ディフェンスを攻略する姿は痛快そのもの。

熊谷選手

身体が小さいからこそ、小回りが利き、結果としてチームを勝利に導くこともあるんですよ!

日本代表としての責任感が妥協を許さない

パラアイスホッケーの魅力について、饒舌に語る熊谷さん。

しかし、幼少期からアイスホッケーに携わっていたわけではありませんでした。

――パラアイスホッケーをプレーするようになったきっかけを教えてください。

熊谷選手

僕の場合は、2008年に交通事故で右足を切断したことがきっかけでした。
学生時代は柔道や剣道などの武道をやっていたので、いわゆるボールゲームを本格的にプレーした経験はありません。

右足を失った時、すでに2児の父親だったという熊谷さん。

「子どもたちに悲しんでばかりいる姿を見せたくない」という気持ちから、なんらかのパラスポーツに挑戦することは決めていたといいます。

熊谷選手

さまざまなパラスポーツの練習会に参加しました。
しかし、「これだ」という競技に出会えず…そんな時、世界規模の大会でパラアイスホッケー日本代表が活躍する姿を見る機会があったんです。

選手たちのプレーに感銘を受けた熊谷さんは、知り合いを通じて、当時の日本代表選手にコンタクト。

その縁からパラアイスホッケーの世界に入り、その後日本代表にまで上り詰めます。

熊谷選手

日本代表には比較的早い段階で参加させてもらいました。
当時のベテラン選手の引退などもあり、若手にチャンスが与えられる時期だったという部分はありますね。

その後、10年以上に渡って日本代表の中心として活躍し続ける熊谷さん。

2014年から日本代表のアシスタントコーチになった町井さんは、熊谷さんの第一印象を次のように語ります。

町井コーチ

ひと言で表現すると、ストイック
日本代表の合宿での取り組み方を見ていれば、普段どれほどストイックにトレーニングをしているかが分かります。

なぜ熊谷さんは、そこまで自分を追い込めるのでしょうか。

熊谷選手

もちろん、僕も「今日はトレーニングがイヤだな」と思うことはありますよ。それでも、結局はトレーニングします。
理由は、日本代表としての責任感。日本を代表している以上、手を抜くことは絶対にできませんね。

仕事と競技の両立の難しさ

選手とコーチ、立場は違えどパラアイスホッケー日本代表に熱い想いを持つ2人。

しかし、サッカーや野球のプロ選手のように、パラアイスホッケーだけに集中できる環境にはありません。

――これまでどのようにして競技と仕事を両立してきたのでしょう?

町井コーチ

私は新卒で日本エヤーブレーキ株式会社(現ナブテスコ株式会社、以下ナブテスコ)に入社し、設計の仕事に携わっていました。
自分がアイスホッケーをプレーしていたこともあり、当初は地元の子どもたちにアイスホッケーを教えたり、試合の審判をしたりしていましたね。

その後、パラアイスホッケーの存在を知って審判の資格をとり、レフリーとして関わるようになりました。

町井さんがパラアイスホッケー日本代表に関わるようになったきっかけも、人と人との縁。

パラアイスホッケーの審判をしていた町井さんに、日本代表の関係者が声をかけたことが最初でした。

町井コーチ

「面白そうだな、やってみようかな」というのが最初の印象。
そして、2014年の秋からパラアイスホッケー日本代表のアシスタントコーチとして、合宿や遠征など、あらゆる面からチームをサポートし始めました。

町井さんがパラアイスホッケーにのめり込むのに、多くの時間は必要ありませんでした。

当初は月に2回、金~日で行われる日本代表合宿に、有給休暇(以下、有休)を1日使って参加していました。

町井コーチ

ところが、2017年ごろから、パラアイスホッケー日本代表の強化のために2か月に1回ほど海外遠征が行われるようになりました。
こうなると有休だけでは足りなくなってしまいます。そこで、初めて会社にパラアイスホッケー日本代表に関わっていることを告げ、相談しました。

利益という点だけを見れば、会社にとって社員がパラアイスホッケーに深く関わることをプラスだととらえないケースもあるでしょう。

しかし、ナブテスコは町井さんの活動を後押ししてくれます。町井さんが日本代表の遠征に参加する際、町井さんを欠勤扱いにするのではなく特別休暇という形でサポートしたのです。

町井コーチ

これは本当にありがたいサポートでした。
パラアイスホッケーのような競技では、周囲の人や企業の理解、サポートがなければチームを強化することはできません。おかげで日本代表チームに大きなエネルギーを注ぐことができたと思っています。

熊谷選手

私は現在、自営業ですが、やはり周囲の方のサポートに感謝しています。
取引先やお客さんなど、縁のあった人たちから道具を提供していただいたり。こういう支えのおかげで競技が続けられているのだと思っています。

CSR活動でさまざまな人を笑顔にするナブテスコ

産業用ロボットの関節部分に使われる『精密減速機』は、世界トップシェアを有するナブテスコ。実は今回のインタビューをセッティングしてくれた『とある企業』とは、ナブテスコでした。

建物用自動ドア、航空機の飛行姿勢を制御する機器や新幹線をはじめとする鉄道車両用ブレーキ、ドアの開閉装置のメーカーであり、実は私たちにとって身近な企業です。

また、CSR活動にも積極的なナブテスコは、2015年から日本パラアイスホッケー協会のスポンサー企業として名を連ねてきました。

町井コーチ

「残りの人生はパラアイスホッケーに集中しよう」と、2021年にナブテスコを退社しました。
現在は日本代表アシスタントコーチという立場ではありますが、古巣と良好な関係が継続できていることは素直に嬉しいですね。

熊谷選手

スレッジやスティック、防具やヘルメットなどが必要なだけでなく、練習のためにリンクを借りなければならないなど、パラアイスホッケーは経済的負担の大きな競技です。
だからこそ、サポートしてくださる企業がいることは、とても幸運なことだと思っています。

世界には、プロに近い形で選手がパラアイスホッケーに専念できる環境を整え、代表チームの強化を図っている国もあるといいます。

もしかしたら、日本は世界で見ると環境面でアドバンテージのない国に分類されるのかもしれません。

それでも、多くの人のサポートを受けたパラアイスホッケー日本代表が「そのサポートを力に変えて大活躍してくれるのではないか」と、つい夢想してしまいます。

「大きな大会で結果を残し、多くの人に知ってもらうことがサポートしてくれた人たちへの恩返しであり、代表チームのさらなる強化にもつながる」

熊谷さん、町井さんともにこう語ります。

パラアイスホッケーがより多くの人に応援してもらえる未来は、実はもうすぐそこまで来ているのかもしれません!


[文・構成/grape編集部]

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