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「これ、どうぞ」孫とヨモギ摘みをしていた女性が、私に袋ごと渡した可愛い理由

By - 産経新聞  作成:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

春の香り

年配の女性と5歳ぐらいの男の子が土手に座ってなんだか楽しそうだ。散歩中の私は気になって近づく。

「おばあちゃん、もういっぱい採ったよ。これでできる?」
「ゆでたら小さくなるよ。もっと摘もうよ」
男の子の袋はよもぎの葉でいっぱいだ。

「ゆでると本当に小さくなるのよね」。
私は心の中で思っていたのだが、そのまま口に出てしまった。

「孫によもぎ団子を食べさせたくて」。
女性が私の言葉に笑顔で返してくれた。

「お孫さん、かわいいですね。私も昔、母とよもぎを摘んでお団子を作りました。できたてのお団子は何よりのごちそうですよね」

「ご一緒にいかがですか?」

心温まるひと言がうれしくて並んで摘み始めた。でも私は袋を持っていない。残念だが摘んだよもぎを男の子の袋に入れておしまいにしようと立ち上がった。

それと同時に女性が持っていたよもぎ入りの袋を私に差し出した。
「どうぞ。私は新しい袋を持っているから大丈夫。それに孫ともっと長い時間、楽しみたいの。気にしないでね」

私はほのぼのとした2人の会話を聞きながら摘んだ。穏やかなひとときだった。

お礼を言って別れ、散歩を買い物に変更。家に帰り、買ってきた重曹とよもぎを熱湯に入れた。葉が一瞬で濃い緑に変わった。冷水に取る。

「やっぱり小さくなったね」

すり鉢とすりこぎで細かくする。亡き母が好きだったあの春の香り。懐かしい香りに満たされながらよもぎ団子を作り、母の遺影に供えた。

奈良県 55歳

産経新聞 2018年05月12日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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