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「職人さんてスゴいですね」初めて現場を目にした新人君 彼は帰宅後両親に…

By - 産経新聞  公開:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

初めての春

左官や鉄筋工、電気や設備屋など沢山の専門職の人たちが集まり、一つ間違えば大ケガをしたり、時には死亡事故にも繋がりかねない作業と背中合わせなのが、私が生業としているマンションの建築現場だ。今年もその建築会社の新入社員たちが研修のためにやってきた。

先ず現場に慣れることからはじまる。室内で作業をしている私を遠目で眺めている新人君に「面白いか」と声を掛けると「はい、職人さんてスゴいですね」と照れながら応え、どんどん質問してくる者もいる。材料や道具を手にして丁寧に答えてやる。と「こら、あんまり大工さんのじゃましたらあかんやろ」と先輩の監督にたしなめられ「すいません」と慌てる新人君。叱る方も私が請負なので手を止めたらお金にならないと気を遣っているのだ。

一日を終え親御さんたちに、強者たちに囲まれて過ごした初体験を話す姿を想像する。わが子の報告に「うん、うん」と笑顔で頷(うなず)くお父さんの気持ちを思うと嬉しくて胸が熱くなる。四十年も親しんだ会社に世話になっていると、あの時の新人君が大きな現場の所長になっている事も有り、繰り返された初めての春を懐かしく思い出す。

あと何年元気でいられるか、いずれ現場を去る時が来る。嬉しいことに我が娘たち二人のそれぞれの出産が近づいている。入学式や就職など、今度は祖父として、また孫との初めての春を思うと、心ワクワク元気が湧いてくる。

大阪府 59歳

産経新聞 2018年06月20日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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