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目が不自由だった祖母 そのかたわらで幼い私が寝たふりをしていた理由

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

寝たふりをして

夕方仕事から帰ると、リビングのコタツで中1の娘が寝ていた。「起きて! すぐご飯するから起きて!」。返事もせず爆睡している。もう、と思いながらコタツ布団を掛け直してやり、頭をくしゅくしゅと撫でてやった。その瞬間、自分の所作が私自身の小学生当時の思い出を蘇らせた。

私の祖母は、物心ついた頃にはほぼ光を失っていた。今思えば背筋がぞっとするような事ばかりだが、目が見えない祖母は、毎日のように白い杖をついて、昔からの勘だけで家の前の車が行き交う国道を渡り、田んぼの草取りに出かけていた。

共働きの母に代わり、ご飯を炊くのも祖母の仕事だった。ガスの炊飯器で釜に目盛りが付いていたので水加減も自分でしていた。おまけに煮物なども難なく作っていた。本当は見えているけど見えないフリをしているのではないかと疑ってしまうくらいだった。凄すぎる。

私が小学生の頃、学校から帰ると今の娘のように、茶の間のコタツでよくうたた寝をしていた。祖母は台所で炊事を終えると決まって茶の間へ来て電気をつける。今みたいなリモコンやスイッチではなく、紐を引っ張るタイプだった。電気はコタツの上にあるので目の見えない祖母に頭を蹴られる。蹴った後に、寝てるんかとつぶやきながら、必ずコタツ布団を掛け直してくれる。それが何とも言えず気持ちいい。そして頭を撫でてくれた。あまりにも気持ちいいので、わざと寝たふりをしたものだ。

その優しい手が懐かしい。

兵庫県 48歳

産経新聞 2018年06月25日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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