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中学生の喫煙を見かけた年配の男性 一度は通り過ぎるも、振り返り声をかけると…

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

大人の責任

陽が傾き始めた頃、スーパーへ妻と買い物にでかけた。屋上の駐車場に車を止め、屋外階段を降りようとしたとたん、禁煙した私の鼻腔をくすぐる懐かしい香り。中学生らしい男子3人が階段に座り込んでいる。私たちと目が合った。

「あっ」と思った瞬間、私の心臓を打つ音は高く、速くなったのが自覚できた。見て見ぬふりをすべきか、注意すべきか、ほんの数秒間の葛藤だったが、長く感じた。注意するなら、何と言うべきか。無視されたら、どうするのか。そうされるならまだいいが、「おっさん、なんか文句あんか」と凄まれ、暴力沙汰になったら確実に負ける。そうなれば醜態を演ずる。…もう70歳の身体、私も若くない。しかし、元教員、このまま見ぬふりは自分自身が耐えられない。かといって…、最悪の場合、新聞に載るかも。さまざまなことが頭の中を急回転した。

彼らは、私たちに見つかったのを気にするふうでもない、というより挑発しているように見える。まだ、私の頭の中では結論が出ていない。このままでは、何事もなかったかのように通り過ぎてしまう。それは嫌だ。私は、通り過ぎざま振り返った。

「タバコはアカンよ」。優しい口調でそう言えた。

一瞬、声が裏返ったような気がした。

3人は照れくさそうな表情をしてお互い顔を見合わせている。手を差し出すと、素直にタバコの箱を私に渡した。

大阪府 69歳

産経新聞 2018年09月19日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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