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2年前、退院した妻がポツリといった一言 夫はその言葉を聞き逃さなかった

By - 産経新聞  作成:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

早起きの訳

最近、私は徐々に早起きになりつつある。そう言うと「歳のせいだよ」と言われそうだが、実は違う。出勤前に庭いっぱいの花の手入れが必要だからである。

思えば、花づくりとは無縁の私がなぜ花を育てだしたのか。2年前まで我が家には、全くと言っていいほど花はなかったのに。

2年前は我が家にとって激動の時期であった。わずか数カ月の間に愛犬が亡くなり、息子たちが家庭を持って家を出ていき、義母が亡くなり、妻が体調を崩して入院し、気が付けば広い家に1人ぼっちになったとき、寂しさの中で、少しでも華やかにと花を一鉢買ってきた。

退院してきた妻がその花を見て、「花を見ると元気になるような気がする」とぽつりと一言。

その一言が引き金になった。早く元気になってほしい一心で次々と花を増やし育てていると、それに伴い妻がどんどん元気になり、また、我が家の花を楽しみにしてくださる散歩の方も増えてきた。

「人は、不幸の中では花を育てようという気にもならない。だから逆に花で溢れた家には幸せが溢れているような気がするの」。妻にそう言われると、そんなものかもしれないなと思う。

そして、最近では、花の手入れをしていると、今まで話したことのない人が、花を見て笑顔で話しかけてくれるようになってきた。なんだか我が家の花が、家族だけでなく他人様まで笑顔の連鎖で幸せにしてくれるのではないかと思うようになってきた。

仕方がない。眠いのは我慢しよう。

 大阪府 66歳

産経新聞 2018年10月05日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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