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「聞こえるママのほうがよかった?」反抗期の息子、すると彼は当たり前のように答えた

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

息子の背中

中3の息子の背丈はとうに私を超えてしまった。背だけじゃない。横幅も倍ぐらいに広がり、その後ろに立つとすっぽりと隠されてしまう。幼い頃はか細く、体も弱かったのに子供の成長とは驚くべきものである。

今は、思春期真っ盛りで話しかけると「もうっ、うるさい」と勢い良く返ってくる。なのに「ごはんは?」の要求だけはしっかり大声で伝えてくるのだ。

端から見たらどこにでもいる息子と母親。でも世間と少し違うのは私には中途失聴による障害があり、話すことはできるが聞きとることが難しいことだ。

あれは息子が2歳の頃だったと思う。夕食時に突如泣き出し、何かをつぶやき始めた。聞きとれない私は手当たり次第に思い当たる物の名前を挙げ「もう1回言って」を何度も繰り返した。でも泣き声は大きくなるばかり。わが子の言葉が受けとめられない母親。聞こえないのだから仕方がない、とわかっていてもさすがに悔しくせつなかった。

結局、親子ともども涙でぐちょぐちょになったその一言は「ウルトラマン」で、今となっては笑い話になっているのだが。

息子は誰が教えたわけでもないのに母親には口をゆっくり動かして話す。伝わらない時は空文字を書くというやり方も身につけていった。文句を言うわけでもなく、あまりに自然体なので「聞こえるママの方がよかったかなぁ?」と冗談まじりに言ったことがある。すると飄々ひょうひょうとした表情で返してきた。「ぼくにとってママが聞こえないことは当たり前。それがぼくのママやねん」と。

今は、口数も減り、大人に向かって成長していっている。そんな息子の背中がとても頼もしく感じられる。

奈良県 52歳

産経新聞 2018年10月13日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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