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「目の前の彼は本当に私の子なのだろうか」連絡もなく帰ってきた息子 母が戸惑うそのワケとは

By - 産経新聞  公開:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

本当のばっちゃん

敬老の日の朝のことだった。他県で所帯を持つ息子が、突然帰省した。仕事が繁忙で、その日は休日出勤になりそうだと聞いていたので早朝チャイムの音で目覚め、玄関に作業着姿で立つ彼を見て即座にその意味をのみこめなかった。

温かいみそ汁と栗ごはん、焼きししゃもの朝食をいっしょにとった後、おもむろに彼は切り出した。「台風大変やったな。えらいことになってるやん。今日手伝いに来たんや」というなり夫と一緒にカーポートの波板はりや屋根、雨桶の修理と手際良くこなしていく。脚立の3段目までしか登れない私には頭の痛い問題だっただけに願ったりかなったりだった。

作業が一段落したとき、彼は「今日は敬老の日やろ。じっちゃん、ばっちゃんの手伝いに来たんや」とてれ臭げに笑う。だが、目の前の彼は本当に私の息子なのだろうか。こんなに柔らかい表情をする子だったのだろうか。

反抗期の頃は腫物にさわるようだった。電車に乗るときも私と違う車両に乗り、他人のふりをしたこと、会話もままならず視線も合わそうとしなかったこと、頭に浮かぶのは心がチクリとすることばかりだ。だが、社会に出て所帯を持って、それなりにもまれてきたのか肩の力が抜けたように思う。ふと見た彼の襟足に数え切れない白髪がある。母が私の白髪を見ることなしに他界したことを思うと、私は本当の「ばっちゃん」になったんだと実感した日だった。

大阪府 61歳

産経新聞 2018年11月16日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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