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100歳間近で声を出すのも辛いはずの母が口ずさんでいた歌 調べてみると…

By - 産経新聞  公開:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

ごめんね

母が亡くなった。100歳と7カ月だった。今年初めに誕生日を皆で祝ったときには、東京オリンピックまでは、いやせめて新元号に代わるまで一緒に、と願ったがかなわなかった。

2年前、母の人生で初めての入院、手術を経験し、その後幾度かの病魔にも打ち勝ってきた。だからこの夏に入院したときも、きっと今までのように回復して、また元気に自分の足で歩いてくれるものと信じて疑わなかった。

手先が器用で、独学で和裁洋裁となんでもできた母だった。いつもにこやかで不満も言わず、誰からも好かれた母。そんな母に対して私は、同じ話を聞かされると「さっきも聞いた」「この間も言っていた」「これで何回目だから」と強引に話を遮ってきた。体力が衰え、言葉を声に出すことも儘ならなくなってから、もっとしっかりと母の声を、話を、聞いておくべきだったと悔やんだ。

数年前のある日「のどが渇いたお星さま」と母が突然歌い出したことがある。美しい旋律と歌詞が心に残ったのでネットで調べてみたが、唱歌にも童謡にも見当たらなかった。母らしい曲としてお葬式で童謡と一緒に流したいと思い、再び調べてみると、あった。『流れ星』という題名だった。「くらいみそらの流れ星、どこへ何しに行くのでしょう」

息を引き取るとき、母の目から涙が一筋こぼれ落ちた。その日自宅に戻る車窓から、空に美しい虹が架かっているのが見え、私の心には、あれもこれもと後悔の思いがとめどなくあふれた。

大阪府 67歳

産経新聞 2018年11月06日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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