grape [グレイプ]

「カツラとともに」バイク旅行を企画中に倒れた妻 しかし、夫はあきらめなかった

By - 産経新聞  公開:  更新:

Share Tweet LINE コメント

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

カツラとともに

私たち夫婦は33年前、21歳のときに共通の趣味であるツーリングが縁で結婚した。以降毎年、温泉やおいしいものを探し求め2台の単車を走らせた。

月日がたち、一人娘も結婚し独立した。夫婦2人身軽になったので以前から夢だった北海道ツーリングを計画した。

そんな幸せな日常の中、なんの前ぶれもなく家内が突然病に倒れ入院することになった。医師からの突然のがん宣告に、狼狽ろうばいし悲しみに暮れるばかりだった。それは重いステージ4の卵巣がんで、胸水がまり約5カ月間入院し生死をさまよった。

だが、無理だといわれていた手術が奇跡的に成功し、周りのたくさんの方々の応援にも支えられ、10回にも及ぶ抗がん剤治療も功を奏し、自宅療養できるまでにこぎ着けた。治療の後遺症により髪の毛は無くなり、手足のしびれや頭痛発熱に苦しめられるものの命の尊さを再認識した。

そんな中、仕事の都合がつき、私が連休を取得できることになったので千載一遇のチャンスとばかりに、一度は断念した北海道ツーリングを再考した。「なんとしても最北端到達に挑戦したい」という家内の決意を尊重し敢行した。

ヘルメットの下にカツラをつけた家内とともに、念願の北の大地に2台の単車を走らせた。果てしなく続く海岸線沿いのオロロンラインを夢見心地で走り、最北端である宗谷岬にたどり着いたときには、この上ない感動に包まれた。

体力が落ちている家内には、かなり厳しい行程だったと思うが、最北端碑の前で写した写真は涙とともに最高の笑顔だった。

「これ以上の幸せはない、もう何もいらない」とさえ思ったが、あれから4年後の今、2回目の北海道ツーリングの計画中だ。

大阪府 54歳

産経新聞 2018年12月03日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

Share Tweet LINE コメント

page
top