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「子育て失敗」亡くなる寸前に母から伝えられた言葉 しかし、娘は真実を伝えずに

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

子育て失敗

「子育て失敗したわ」。そう言い残して母は亡くなった。私が、「会社を辞めた」と伝えたからである。

小さい頃から母とは折り合いが悪かったけれど、結婚して子供ができてからは、仕事を続ける私を助けるために、母は片道3時間かけて保育所の迎えに来てくれていた。その母が末期がんで余命幾ばくもないと分かったのは、ちょうど、会社が希望退職を募っていたときであった。助かる見込みのない母に対して、私は、仕事を辞めてでも、悔いの残らない看取りをしたいと思った。

がん告知はまだ一般的でなく、本人に病名は伏せていた。母は、回復したらまた、私の仕事を応援するつもりでいたらしい。仕事に励む娘の姿が喜びだったのに「悔しい」と言った。それでも、仕事を辞める本当の理由を知らせるわけにはいかなかった。

あれから20年、今では、息子も社会人となったが、なかなか親の思うようにはならない。しかし、最近、思うのである。果たして子育てに、失敗とか成功とかがあるのだろうか。親の期待通りであれば成功で、なければ失敗というのだろうか。

息子が小さくて言うことを聞かなかったとき、私は怒って、「子育て失敗や」と言ったことがある。そのとき、息子は「お母さんは僕のこと失敗作品と思っているのか」と言って泣き出した。やっと、この時初めて、「子育て失敗」は言ってはいけない言葉だと分かった。

でも、なぜ、私自身が母の言葉に傷つかなかったのかは、いまだに分からない。

兵庫県 64歳

産経新聞 2018年12月01日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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