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60年前の恋文 「長生きできないかもしれないけれど…」その後に続く言葉は今も忘れない

By - 産経新聞  公開:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

60年前の恋文が…

そろそろ身辺の整理を…と思い立ち、あちこちひっくり返していたら、古びた小さな菓子箱の中から30通あまりの手紙が出てきた。

60年ほど前、今の妻にもらった恋文だった。

手が止まり、しばし時を忘れて読み返した。

その頃、私は肺結核に感染し隔離病棟に入院、失意と不安の日々を過ごしていた。彼女は、片道1時間半ほどをバスを乗り継ぎ足しげく見舞ってくれ、何かと気づかいを見せまた、手紙もくれたのだが、私を案じ慕ってくれる心情が文面にあふれていた。

私たちは出会いから8年近い歳月を経て、昭和35年秋ようやく結婚できた。

プロポーズの言葉『長生きできないかもしれないが、生きてる限り大切にする…』とあの時見た風景は今も忘れていない。

幸いこの年まで長生きできたのだが、肝心の彼女は今、パーキンソン病とアミロイドーシスのふたつの難病認定患者で要介護4、身体障害2級。この6年間に2度の脳出血と、骨折・感染症他で入退院を繰り返しているが、介護保険や医療保険での支援を受け、週3回のデイサービス・週2回の通所リハビリを利用させて頂きながら、今も自宅で共に暮らせているのがありがたい。

若い頃から彼女はとても機敏で、当時満員盛況だった映画館などでは素早く席をとって『ココヨッ…』とうれしそうに手を振ってくれたものだった。

何れ行くことになるあの世とやらでも、彼女は上等の席を用意して、満面の笑顔で手招きしてくれることだろうが、逆に私が先立つことになっても、今度は私が『ココダヨ…』と、彼女に負けない笑顔で迎えよう。

和歌山県 85歳

産経新聞 2018年11月28日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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