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「持てるだけの布を買ってきて」余命を宣告された教え子から謎の依頼 彼女がみた驚きの光景とは

By - 産経新聞  公開:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

娘に贈る最高の宝物

先日、大学勤務時代の教え子の家を訪問した。ご主人と愛くるしい11歳の彼女の娘に手を引かれ仏間に入り、30歳で天寿を全うした教え子の笑顔の遺影が飾られたお仏壇に手を合わせる。その横に置かれたミカン箱程度の大きさの美しい箱の中には娘の大好きなキティの手作りグッズが入っている。

今から7年前の深夜10時頃、私は電話で彼女のご主人から彼女が膵臓(すいぞう)がんで余命3カ月の診断を受けたことを聞いた。すぐに入院をしなければならないのだが、彼女はそれを拒み涙一つ見せず、家で黙々と作業をしていることを聞き翌日家にお伺いしたい旨を述べた。それをご主人が彼女に伝えたところ電話口の向こうから「キティちゃんのキルティング生地を持てるだけ買ってきてほしい」と彼女の声が聞こえた。

状況を把握できぬまま翌日、生地を買いこみ自宅に伺うと彼女は熱心にミシンでまな娘のかばんや上靴入れを何枚も作っていた。大学時代は消極的でなかなか友人が作れないと私の研究室で泣いていた彼女だが、娘に自分が母親として生きた証しを残そうと奮闘するその姿は見る者全てに勇気を与えた。

入院後も病室で娘の名前シールを書き続ける彼女が教えてくれたことは「精いっぱい生きるとはこういうことなんだ」ということ。それは、当時3歳だった娘に贈る最高の宝物になったであろう。

仏壇の横の箱には、新品のキティのグッズがたくさん残っている。「私の子どもにおばあちゃんからよ。って渡すの」と言う娘。母娘の心の絆は生死を超え固く結ばれ、次世代に受け継がれようとしている。

大阪府 53歳

産経新聞 2018年12月13日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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