grape [グレイプ]

「地元で災害が起きても、私の仕事は役に立たない…」すると、疲れた表情のお客さんがやってきて

By - 産経新聞  作成:  更新:

Share Tweet LINE

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

あるブティックでのある一日

広島県の田舎町に戻り婦人服小売業を営んで、25年目。祖母から数えて4代目、今年で創業60周年を迎える。家族だけの零細店にもかかわらず、地元のお客さまに支えられ、なんとか細々ながらも営業を続けることができた。

この夏はわが町も、7月の西日本豪雨災害に加えて連日の猛暑続き、と記憶に残る散々な夏だった。さらに9月には台風が次々と来襲。多くの企業や会社が何らかの援助に向かうなか、われわれファッション業界は非常時にはなんと無力な存在なのかと忸怩(じくじ)たる思いであった。「売り手、買い手、世間」(三方良し)の泰平の世のもとでのみお役に立てる仕事であることを痛感させられ、やや自信を失いかけていた。

ところが先日、土砂崩れにより自宅全壊の被害を受けたという新規のお客さまが、やや疲れた表情で来店された。精神的、肉体的、金銭的にも大きな痛手を受け大変だったけど、命が助かっただけでもありがたかった。少し心にゆとりができたのでおしゃれな洋服でも見てみようかな、と…。

首尾よくきれいなブルーのセーターを気に入られて、お買い上げいただいた。下手な慰めの言葉をかけるでもなく精いっぱいのおもてなししかできなかったが、帰り際に「久しぶりにとっても楽しかった。また来させていただくわ。ありがとう」と言われ、ずいぶん明るい表情になって帰られた。

お見送りの際、そのお客さまの背中に一日も早い復興と、いつまでも平穏の世が続きますようにと祈らずにはいられない私がいた。私たちの仕事の意義に改めて気づかされ、逆に勇気と元気をいただいた清々(すがすが)しい一日だった。

広島県 57歳

産経新聞 2018年12月17日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

Share Tweet LINE

page
top