grape [グレイプ]

30年前のフィルム そこに残る友の娘の姿を見た時、男性は恐る恐る電話を手にした

By - 産経新聞  作成:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

『黄泉がえり』

整理中、三十数年前に撮ったシングル8のリール巻きが二十数本出てきた。映写機も壊れ、見る術もない。カメラ屋の主人から「このままではリール同士がへばりつき使用不可となる」と聞き、CD化してもらった。

さっそく、見てみると思い出がいっぱい出てきた。逝った祖父母、父母たちが照れ笑いしながら映像の中でしゃべっている。私は黄泉(よみ)がえった倒錯感が出て鳥肌が立った。不覚にも涙が膝に落ち、思わず画面に向かって「父ちゃん、母ちゃん」と語りかけていた。

あのときのアレヤコレヤの騒動、いいのも悪いのも、今は全部が良い思い出。じいさん、ばあさん、父ちゃん、母ちゃん、あの世で再会していると思うけど、画面に出てきたあの笑顔のままであってほしい。私は還暦から9年、「まだ子供や。これからや」と画面の4人に向かって言い、終活なんかはずっと先やと自分には示唆した。

しかし、最後の1枚には迷っていた。友の娘さんの映像で、小学校に入る前の音声入り動画だ。娘さんは博士号を取り、両親に楽をさせたいと昼夜問わず勉学に励んでいた矢先、不幸にも若くして天国に向かった。奥さんが棺に眠る娘さんの顔をさすり続けておられたのが、今でも目に焼き付いて離れない。友と奥さんの心情は計り知れなかった。

電話で恐る恐る話してみると、「ぜひ、見てみたい」と急かれ、送付した。後日、「ほんとにありがとう。あの子と会えた」と涙ながらにお礼を言われ、自分はホッとしたのが第一だった。

奈良県 69歳

産経新聞 2017年10月18日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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