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帰宅した父を驚かそうとした「おかえり!」 驚いた後、涙を流した父の理由

By - 産経新聞  作成:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

父の涙

昨年一番の大ニュースはなんといっても6月に起こった大阪北部地震だろう。あの日私は高校の体育館に避難して家族を心配しながらふと父のことを考えていた。警察官の父は東日本大震災のとき、人命救助や遺族の世話をするために1カ月近く、東北地方に派遣された。

大阪に残った私たちは毎日テレビで流される地震速報を見て、激しい余震が続く現地で働く父を心配していた。父は東北からときどき、電話で「元気にしてるから」と連絡してきたが、無事に帰ってきてほしいと心から願っていた。

「明日、父ちゃん帰ってくるで」と母が言ったとき、本当によかったと思った。そして私と母と兄は父を驚かせようとある作戦を立てた。

私の自宅はマンションで14階までエレベーターを使う。私たち3人は父がエレベーターで上ってくるときを見計らって扉の前に立ち、その扉が開いた瞬間に、「おかえりっ!」と声をかけようと思いついた。

3人の大声に父は、「びっくりしたあ」と驚いたが、その後で急に涙をポロポロと落とした。母も涙ぐんでいた。私は父の涙を見たのは初めてだったので、父以上に驚いた。

だけど今ならわかる。父の涙は緊張した仕事が終わり、家族の元に帰れた安心の涙だった。

北部地震のとき、私も早く家族の顔が見たいと泣きそうだった。家族を大切にと口でいうのは易しい。要は涙が出るほど強い思いを家族に持っていられるか。父の涙で学んだことである。

大阪府 16歳

産経新聞 2019年01月29日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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