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「しっかり役目を果たしたよ」 私の反対を無視し、夫が連れてきた娘は

By - 産経新聞  公開:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

夫の遺産

十七年前の夏の暑い日、やんちゃ娘はやってきた。断固反対の私を無視し、夫がラブラドールの子犬をもらってきたのだ。噂には聞いていたが、ラブラドールの破壊力はすさまじく、家中のカーテンをひきちぎり、庭を荒らし、大きな鳴き声に苦情がきたことも。日中は私と二人きりになり、子育てならぬ犬育てにノイローゼ気味になっていた。

しかし、そんな娘も数年経つとまるで違う犬のように大人しくなり、孫の遊び相手も上手にこなし、車に乗せて旅行を楽しめるようになった。

そんな矢先、夫が一年間の闘病の末、あの世に旅立ってしまった。まるで恋人同士のようにいつも一緒だった二人。「らんちゃんに逢いたい…」と病床で何度も呟いていたが、願いもむなしく一度も家に帰ることができないまま病院で生涯を閉じた。

そして、ようやく前をむき始めたその三年後、今夏の暑い日に娘も逝ってしまった。

「私が寂しかろうと三年残してくれたのかな?もうそろそろ呼んでもいいよな、とお父さんも寂しくなって連れて行ったのかな?」今でも時折部屋の片隅で見つける娘の毛を拾いながらそんな思いに耽(ふけ)っている。

お父さん、あなたが逝ってから娘は充分役目を果たしてくれましたよ。

今度はそちらで久々のお散歩楽しんでね!

奈良県 70歳

産経新聞 2018年01月13日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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