grape [グレイプ]

お爺さんが気まずそうに入った女性下着店 その理由を知った時、心が暖かくなる

By - 産経新聞  公開:  更新:

Share Tweet LINE コメント

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

愉しめない買い物

私には、1年に2、3度ではあるが、どうにも居心地の悪い時間を過ごさなければいけない日がある。それは、悪事を働いているわけでもないのに、やたらと他人の目が気になって仕方のない時間を過ごす日のことであり、そのときは冷静を装いながらも精神状態は微妙に乱れている。

ふつうに品物を手に取ってゆっくりと品定めをするということは、許されない行為であると自戒しているし、感情を抑えつつ冷静に選択することは、あらぬ嫌疑から逃れるための最低条件だと知ってもいるつもりだ。

今年の正月2日、孫の世話を兼ねて久しぶりにその店へ買い物に行った。入店前から私の頭の中には求める品のサイズ、素材、形、色合い、柄などの条件が入力されている。目星をつけた陳列の前に足早に移動し、条件を満たす商品をできるだけ素早く正確に選び、すぐにレジ待ちの行列に孫と並んだ。気がつけば、というより当たり前のことなのだが、私と孫の2人を除けばすべて女性たちが並んでいる。それは店外にまで延びる絶望的に長い行列であった。

「ああ、なんと長い列なんだろう?よりによってこんな日に来てしまって。一刻も早くこの場から姿を消したいのに…」

私には長らく闘病中の妻がおり、その妻の代わりに下着を買い求めに来ているんだというれっきとした理由がある。「何も恥ずかしいことはない。むしろ胸を張ってもいいくらいだ」などと心の中でむなしく自分を励ましているが、他人にそんなことは分かるはずもない。

好奇の視線を背に感じながらの落ち着かない買い物はこれからも続いていく。

広島県 68歳

産経新聞 2017年10月12日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

Share Tweet LINE コメント

page
top