「よく我慢したわ」結婚20周年、悪態をつく妻の元に届いたのは硬派な夫からの初めての手紙 By - 産経新聞 公開:2019-03-06 更新:2019-03-06 エッセイ夕焼けエッセー産経新聞 Share Tweet LINE コメント 産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。 さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。 恋文 4年前のことだった。「お届けものです」。インターホン越しのおばさんが何か大きな荷物を抱えて言った。何だろうと玄関を開けると「おめでとうございます。ご主人さんからです」と両腕いっぱいの赤いバラの花束を差し出した。 この数カ月前「今年結婚20周年になるんやなあ。本当私よく頑張ったわ、よく我慢した。自分で自分を褒めたい」と悪態をついた。「それは俺のセリフや」。2人で意地を張り合ったことを思い出した。でもやっぱりちょっと気にしてくれていたんだとうれしくなる。 そんなまどろみの中にいる私の宙に浮いた視線を遮るように「奥さん、幸せやなあ」。花屋のおばさんがやさしい顔で切り出した。少し恥ずかしくなって花束に目を落とした瞬間、私ははっとした。小さなメッセージカードに“20周年、長い間ありがとうございました”と書いている。おばさんの顔を見ると静かに「ご主人が書く言うてなあ」と。 結婚する前も後も、手紙はもらったことがない。私のことを、おい!と呼び、歩くときは右一歩後ろ。ありがとうも、ごめんも俺の行動で分かれとばかりに硬派を貫く昭和の男が、こんなメッセージをくれたことが意外で少しドキドキしてしまった。おばさんとのやりとりはさながらフェルメールの恋文のようなシチュエーションで、きっと本物の絵を見たら、この人物が刻んだ同じ鼓動が私にも蘇るのだろうと思った。 あなたがよく口ずさむ歌にもあるように、なぜめぐり逢うのか、こんな糸がなんになるのか悩んだ日々も数えきれないくらいあったけれど、私は逢うべき糸に逢ったのかもしれません。お父さん、こちらこそ長い間ありがとう。 大阪市 49歳 産経新聞 2019年02月15日 ーより [提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部] Share Tweet LINE コメント
産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。
さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。
[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]