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「あなたたちのようになりたい」義両親への挨拶、初めて出会った義父は機械の声をしていた

By - 産経新聞  作成:  更新:

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産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

身近な先輩

面と向かって「好きです」とか「愛しています」とか言わなくても、お互いの気持ちが分かっているのだろうなという2人に出会った。

夫の両親、義父母である。初めて2人に会った日、私の目は自然と義父の持つ円柱型のマイクのようなものへと向いた。

『こんにちは』

機械音だった。すぐ隣で義母が、義父の喉のあたりを示しながら説明してくれた。

咽頭癌いんとうがんの手術をしてね、ここに穴が開いているの。この機械を喉にあてて、振動させて声を出しているの」

義父が明るい調子で話を続ける。『まあ担当になった先生がいい人でね、この通り、命があってよかったですわ』「それは…大変でしたね」。月並みな受け答えしかできなかったのは、あれこれ思いを巡らせ過ぎたせいかもしれない。こんな時、何と言えばいいのだろう。

「この人をこのままにしておけないと思ってね」。義母が、落ち込んだ義父を旅行へ連れ出したという話をしてくれた。旅行先で撮った写真は、義父が編集して十数冊の本格的な写真集になっている。

『いろいろ行きましたわ』と見せてもらったどの写真にも義母がいてほほえんでいた。「病気があったから、こうして今、2人で笑っていられるのよね」と義母が言えば、『いや、病気がなくても仲良うやっとるはずですわ』と義父が切り返す。阿吽あうんの呼吸で弾む会話に、気遣いは必要なかった。

2人の様子を見ていて、こんな風に齢を重ねたいと羨ましくなった。今年で2人は結婚して50年になるという。夫と相談して、金婚式は精いっぱいお祝いすることにしよう。

大阪府 43歳

産経新聞 2019年03月06日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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