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施設に預けていた『認知症の母』 10日後、変わり果てた姿で帰宅し…

By - 産経新聞  公開:  更新:

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産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

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母の目に涙

娘が第2子を出産することになり、孫娘を預かることになった。しかし、わが家には要介護の母がいて、認知症が進んでいるため、とうてい両方の面倒は見られない。そこで母を施設のショートステイにお願いした。

10日後、母は車いすに乗って帰宅した。歩けていた足が萎えて、立つことができない。目は虚ろで無表情、体はバランスを崩して左に傾き、食べ物がのどを通らなくなっていた。あまりに変わり果てた姿にショックを受ける。

入所前の説明で「ベッドが中心の生活になります」とは聞いていた。滞在中に「ボーっとして様子がおかしい」という電話もあった。限りある時間と人材の中で、できる限りのお世話をしてもらっていたとは思うが、母から生気が消えているように感じた。

なんとか蘇生させようと、毎日、頭から足の先までマッサージを開始する。ひたすら肩をもんでいたそのとき、ふと母を見ると、目が潤んで真っ赤に充血していることに気がついた。母は泣いていたのだ。記憶の奥底で、ひとりにされた寂しさがこみ上げてきたのではないか。

お昼寝から目覚めると、生き返ったようなすがすがしい顔で「あんたの肩をもんでやったこと一度もなかったなあ」とつぶやいた。そこにはわが家に帰った安堵の表情が浮かんでいた。さあ元気を出して一緒にリハビリを続けよう。

大阪府 63歳

産経新聞 2019年04月29日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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