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41年働いた会社を退職した男性 先輩からの『手紙』に、書かれていたのは…

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※写真はイメージ

産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

後戻りの通勤路

41年間勤務した会社を定年退職した。翌月、いつものように駅へ向かい、そしていつものように新聞を買った。しかしいつもと違うのは、そこから家へ帰ることだ。

駅へ向かう多くの人とすれ違う。今まで背中を見ていた人たちの顔を正面に受け止めながら歩く。無表情な人もいれば、スマホを見ながらの学生、目線を下にし、若干疲れたような人もいる。

人様の顔を好奇心で眺めるとは不謹慎なことと思いつつ、ふと、自分はどんな顔をしているのか考えてしまう。ごく普通の表情だろうか、少しは晴れ晴れとした表情になっているかもしれない。なにせ、これからは、行くところがなくなったと考えるのではなく、もうどこかへ行かなくてもいいのだ、と考え始めていたからである。

退職の近づいたある日、ずいぶん昔に退職された会社の先輩からお手紙をいただいた。そこには、『自分の経験からすると、65歳からは黄金の10年間がある。この期間は、天からのプレゼントだと思って、自分のやりたいことに思うぞんぶん使っていいのだよ』と書かれていた。

そう言われても、個人的には田舎にいる老齢の父親の世話や空き家となっている実家の片づけなど、新たな仕事が目の前に展開しつつあるとの思いもあるが、先輩の励ましの言葉が頭の中を駆け巡る。すると、なぜかウキウキしてくるような気がする。

そうこう思いを巡らしながら歩いているうちに、自宅のあるマンションの入り口に着いた。傍らにある樹齢40年の大きな木には、満開の桜が咲いていた。

兵庫県 65歳

産経新聞 2019年05月28日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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