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医者「時たまこんなことがある」 出張から帰り、病院に行くと母は

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※写真はイメージ

産経新聞大阪版、夕刊一面で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『夕焼けエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

待っていてくれた母

毎年、お彼岸が来ると思い出すことがあります。

あれは14年前、母が88歳で病床にあった時、もういつ逝くかわからぬ時、私の出張があった。万が一の時はすぐに引き返すから、と妻に言って出張に出た。

毎日、家に電話を入れ、妻から「いつもと変わらないから」と聞くと、胸をなで下ろした。

それから1週間、やっと出張から帰宅した。翌日、すぐに妻と病院に母を見舞った。

「お袋!元気かい」と声をかけるも母は静かに目を閉じたまま静かに息をしていた。おだやかな顔だった。私は医者に聞いた。「このままの状態が続くのでしょうか?」。「この状態で3カ月から半年は続くでしょう」と。

私はこのままでも良い、一日でも長生きしてほしいと願った。「それではまた来るからなあ!」と母の手を握った。温かなぬくもりがあった。

帰り道、妻が子供の買い物があるからとスーパーに立ち寄った。その時、突然ケイタイが鳴った。

弟の嫁さんから「お義母さんが今、亡くなりました」と。今、病院からの連絡があったという。私は妻と顔を見合わせ、まだ病院を出てから30分もたっていないのにとびっくりした。すぐに病院に引き返した。

母は静かに眠っていた。息はしていなかった。落ち着いたおだやかな母の顔だった。

「ありがとうございました」と私は医者に言った。「お母さんはあなたの帰りを待っていたのでしょう。時たまこんなことがあるんですよ」と医者は言った。「お袋さんありがとう」と手を合わせた。

大阪府 79歳

産経新聞 2018年04月18日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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