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泣きじゃくる娘を連れて外に出た母親 通りすがりの女性に声をかけられ…

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

黄昏泣き

赤ちゃんは、泣くのが仕事、というのは、赤ちゃんを育てている母親の心と体が健全な時に理解できることなのだと思う。

26歳の時の私は、初めての子育てにオロオロし、長女の、毎晩の夜泣きにクタクタになっていた。加えて長女は夕方になるとぐずり出し、やがてぎゃんぎゃん泣きになり、おしめを替えてもミルクを飲ませようとしても泣きやまず、こちらの神経も、おかしくなりそうだった。

その日の夕方も、家事をあきらめ、泣きじゃくる長女を抱いて外へ出た。団地の前の空き地にはハルジオン、ヒメジョオン、タンポポの綿毛が揺れていた。通りかかった女の人が、「お散歩?」と聞いてきたので、「毎日、夕方になると、この子が泣くんです」と答えると、「あら、この赤ちゃん、黄昏泣きしやはるの」とだけ言って遠ざかっていった。

黄昏泣き、黄昏泣き…。そんな言葉があるんだ。そんな言葉があるくらいなら、夕方に泣く赤ちゃんは、ほかにもたくさんいるのかもしれない。黄昏泣き、何てきれいで優しい響きなのだろう。ふと気づくと長女はいつのまにか泣きやんで、風に舞う、タンポポの綿毛を目で追っていた。見知らぬ、さっきの人は、京都の人なのか、はんなりとしたイントネーションだった。

夕焼けの淡い色と水色が混じる夕暮れ、ハルジオン、ヒメジョオン、タンポポの中で、私は、いつまでもその言葉をかみしめていた。

大阪府 62歳

産経新聞 2019年06月14日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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