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隣で釣りをしていた男性 釣った魚を渡してきた『理由』に、涙

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

釣りする男

何年か前のことだ。5月の中旬、いつも出かける漁港に釣りに行った。そこは潮通しが良く、係留された漁船の近くに釣り糸を垂らすと、大型のカレイが釣れた。その日も30センチ近いやつが次々と釣れた。

私の他にもう一人釣り人がいた。黒に赤の線が入ったジャージーの上下を着て、髪はぼさぼさの、無精ひげを生やした40歳くらいの男だった。私の居る場所が釣れているので、だんだん近づいてきてこっちを見る。

人懐っこい笑顔を見せ、「どう、釣れてます」「そうだね、今日はいいね」「ここで釣らせてもらっていいすか」「ああ、どうぞ」。男の竿(さお)にカレイが掛かり始めた。しかもダブルで。釣れる度にこっちに笑顔を向ける。憎めない感じの男だった。

やがて釣れなくなったころ、男は私に言った。「このカレイもらってくれませんか」「え、せっかく釣ったのに、料理して食べれば」「自分、女房と別れて、いまひとりだから」「あ、そうなんだ」

すると男は急に真顔になって、「癌なんすよ自分。来月手術の予定で」。一瞬、私は返答に窮した。黙ってうなずき、「大変だね」とだけ言うと、男はせきを切ったように病気のことを話し始めた。私は竿を握ったまま男の話を聞いていた。

話し終わると男は照れたように、「すんません、変な話しちゃって」と頭を下げた。私はカレイをもらうことにし、「手術、うまくいくといいね」「そうすね」。男は例の笑顔を見せ、乗ってきた軽自動車で帰っていった。

青森県 66歳

産経新聞 2019年06月21日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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