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歯科技工士と結ばれた女性 数年後、名字が変わった理由に涙

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

歯に命

母親に付き添われ、お口を開けてくれない女の子が、いつのまにか年頃になったかと思うと名字が変わり、子供連れで来院される。「ちゃんとお口を開けなさい」などという光景を既視感を持ってほほえましく見守る開業歯科医師としての年齢になった。

永久歯が生えそろったころから診ているご婦人が久しぶりにいらした。かつて連れてきていた子供さんも中学と高校生くらいになったかなあと思いつつカルテを見ると、名字が変わっていた。

「先生には本当に感謝しています」との第一声。戸惑う私に「前の主人のこと覚えていますよね」。歯科技工士の方と結ばれ、家族4人で来院されていたころの記憶がよみがえってきた。「それではうちの技工士ではなく旦那さまに歯を作っていただこう」と彼に外注し彼女のお口に装着したこともあった。

その後彼は体調不良が続き、病院受診時には既にがんが転移していて、あっという間に旅立ってしまったとのこと。「主人の手作りの歯を先生に入れていただいたので、今でも私の口の中で思い出とともに生きています。私のこの歯は主人の形見です」。さらに笑顔で「こんな私にはもったいない方と最近縁が結ばれました」と語ってくれた。

ご多幸を祈るとともに、お口の中だけでなく、人とかかわる仕事を担う悦びであふれる診療となった。

埼玉県 59歳

産経新聞 2019年06月26日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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