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ふぐ料理屋の一人息子が、家業ではなく「つげ櫛屋」を継いだ理由

By - ニッポン放送  公開:  更新:

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毎週土曜日朝8時放送 ニッポン放送『八木亜希子LOVE&MELODY』より。

番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

昔から日本髪に欠かせないのが、つげの木で作られた「つげ櫛」。しかし、時代の流れや後継者難などもあり、つげ櫛の専門店はいま全国にわずか10軒ほどしかありません。

きょうは、板前さんから転身して江戸時代から続く浅草のつげ櫛店を継いだ、30代のご主人のストーリーをご紹介します。

浅草にある老舗『よのや櫛舗』外観

毎日観光客でにぎわう、浅草の伝法院通り。およそ300年前、江戸時代に創業し、大正初期からいまの場所でつげ櫛の製造・販売を行っている老舗が「よのや櫛舗(くしほ)」。浅草に移ってから4代目になる現在のご主人が、斎藤悠さん・38歳。

生まれも育ちも浅草、チャキチャキの江戸っ子の悠さんは、15年前に23歳の若さで「よのや」を継ぎました。店頭の作業場で仕上げをしたり、お客さんの髪に合った櫛を勧めたり、ときには職人、ときには商人になる悠さん。幼なじみの奥さん・有都さんと一緒に老舗を切り盛りしています。

滑らかな質感で、髪に優しいつげ櫛。鹿児島・指宿産の本つげを半年、釜でいぶし、さらに半年、空気に当ててから加工して行きますが、その工程は何段階にもわたり、それぞれ専門の職人さんが存在します。

最終工程である、櫛の歯に「歯擦り棒」でやすりをかけ、ツバキ油に漬け込むなど、最終的な細かい仕上げは悠さん自身の手で行っています。

日用品としても使える櫛を作りたいという

「つげ櫛は値段もそれなりにしますし、よく“伝統工芸品”だと勘違いされるんですが、うちは“日用品”として使えるつげ櫛を作っています」と言う悠さん。そのこだわりは、代々受け継がれた「家訓」かと思いきや……「実は私、この家の人間じゃないんですよ」。斎藤家は浅草で代々ふぐ料理の割烹を営んでおり、悠さんはその一人息子でした。

「学校を出たら実家のふぐ屋を継ごうと、板前の修行をしていたんです」と言う悠さん。一方、「よのや」の初代と2代目の苗字は「峰川」だったのですが、2代目は子どもがいなかったため、奥さんの実家・斎藤家から養子を取り、3代目を継がせました。それが悠さんの叔父さんでした。

ところが……その叔父さんが15年前、突然倒れて48歳の若さで亡くなり、主を失った「よのや」は廃業の危機に追い込まれたのです。

「そのとき、うちの父が言ったんです。『自分が元気なうちは、ふぐ屋を続けるから、お前は弟に代わって櫛屋を継げ!』って」

髪留めとして使えるものも

悠さんは幼い頃からしょっちゅう、親戚でもある「よのや」へ遊びに行っていました。とくに2代目のご主人には本当の孫のように可愛がってもらい、お店で櫛の仕上げをする様子を間近で見ていたのです。ときには新幹線に乗って、関西の職人さんの所まで連れて行ってもらったことも。

「いま思えば2代目は、僕が跡を継いでくれたらなぁ……と思っていたようですね」

悠さんのお父さんも、浅草に1軒しかないつげ櫛屋をなくしてはいけない、という思いから、跡継ぎである大事な一人息子を「よのや」へ送り出す決心をしたのです。

悠さんは言います。「つげ櫛の修業はゼロからのスタートでしたが、子どもの頃に『よのや』で櫛作りや、お客さんとのやりとりを間近で見て育ったことが、ずいぶん役に立ちました」

木の温かみがとても美しい

店を開けながら、休日に新幹線で関西の職人さんの所に行って修業する往復生活が始まりましたが、職人さんたちは悠さんのことをちゃんと覚えていて、温かく迎えてくれました。

「むかし旦那がよう連れて来たあのボンが、こないに大きゅうなったんか! ボンが店を継いでくれて、旦那もさぞ喜んではるやろうなぁ……」

関西でみっちり櫛作りのイロハを叩き込んでもらった悠さん。15年経ったいまも、まだまだ勉強することは多く、分からないことがあると職人さんの所に教えを請いに行くそうです。

浅草に1軒となったつげ櫛店を守りたいという悠さん

3年前、お父さんが亡くなったのを機に、実家のふぐ割烹をたたんだ悠さん。

「なぜ家業を継がずに『よのや』を継いだかと言うと、飲食店はたくさんあるけれど、つげ櫛店は浅草に1軒しかないですから。いいものを後世に残したい。そして僕はやっぱり、2代目のおじいちゃんと3代目の叔父さんが作業場に並んで座っていた、この櫛屋の雰囲気が大好きなんですよね……」

八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50

八木亜希子 LOVE & MELODY

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出典
ニッポン放送ふぐ料理屋の一人息子が、家業ではなく「つげ櫛屋」を継いだ理由

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