grape [グレイプ]

父「今日は夕飯いらない」 その言葉を聞くたびに、娘が喜んだ理由

By - 産経新聞  公開:  更新:

Share Tweet LINE コメント

※ 写真はイメージ

産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

深夜のお土産

父は銀行員の仕事柄、接待の宴会が多くあった。バスの最終便に間に合わず、母が車で駅へ迎えに行くことはしばしばで、ときには繁華街から1時間かけタクシーで帰宅することもあった。

小学生の頃、朝の食卓で父が「今日は夕食いらない」と母に言うと、私はいつもわくわくした。飲み会の日には必ず、お土産があったからだ。

宴会先から手土産でもらうお寿司、酔い覚ましに立ち寄る喫茶店のサンドイッチ、苺が一面にのったホールケーキ。私は母に促され夜9時には布団に入るものの、今日のお土産は何かな?となかなか寝付けない。門扉が開く音がすると、兄には負けまいと走って玄関へ行き、父を迎えた。

「顔見んと、手元ばっかり見てるなあ」

父はよく、そう笑いながら箱を差し出した。いつもは鼻をつまむほど嫌いなお酒のにおいも、この時ばかりはまったく気にならない。日が替わってからの夜食は、なんとも大人の味がした。

今では2児の母となった私も、帰りが遅くなる際には必ずお土産を買う。「おかえり!」と駆け寄ってくる子どもたちの笑顔が見たいからだ。

父が亡くなり7年。今思えば、お酒が弱い父にとって接待はつらい時間だっただろう。けれど、お土産を渡す父はいつもうれしそうだった。

私が喜ぶ顔も、父の癒やしとなれていたのだろうか。

大阪府 48歳

産経新聞 2019年07月08日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

Share Tweet LINE コメント

page
top