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ベランダから花火を見ていた夫婦 「最後かもしれない」と妻が心の中でつぶやいたワケ

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

花火のおっちゃん

子供たちがまだ小さかったころ、毎年夏になると夫は花火をするのが、楽しみだった。

定番の線香花火やヘビのようにくねくねと、黒い煙の出るものや、いろいろな花火をたくさん買ってきて、やり始めると近所の子供たちやその親まで集まってきて、いつしか近所で「花火のおっちゃん」と評判になり、夏の夜のヒーローであった。

時は流れ毎年5月に地域の花火大会が開催されるようになり、わが家の2階のベランダから、夫と2人ひと時を楽しむようになった。しばらくして周りに高い建物が建つようになり、ベランダから見られなくなってからは、遠くで聞こえる音だけを楽しんでいた。ある年、近くまで見に行こうということになり、目前に迫る花火は圧巻だった。

とりわけ、平成16年の花火大会は忘れられない想い出になった。

夫はガンを告げられて、3年目に入っていた。私はもしかしたら、これが最後になるかもしれないと胸の片隅で感じつつ、頭上いっぱいに降り注ぐ花火に、夫と2人抱かれていた。

そして、翌年1月、召された3週間後に生まれた初孫と、花火をすることも、みることもかなわず、夫は64歳で逝ってしまった。

今でも花火の季節になると、あの時の花火よりずっとずっと高い所へ行ってしまった「花火のおっちゃん」の笑顔が、私には見えるのです。

大阪府 73歳

産経新聞 2019年08月11日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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