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高齢者を見て「いいな」とつぶやく夫 妻は、かける言葉が見つからなかった

By - 産経新聞  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

十七回忌に

まもなく夫の十七回忌を迎える。同い年の彼と過ごした30余年という月日は、長くもあり短くもあった。団塊の世代に生まれ、常に競争を余儀なくされた私たち。

定年後の夢を語り、その準備も始めていた55歳で、夫は病に倒れた。しかし最後まで仕事に対する愛着が強く杖を突きながらも、私と長女の送迎で数日間、職場に出た。

予定より早く職場の駐車場に着いた朝、ジョギングする何人もの高齢者の姿を車窓から見て「いいなあ」と夫が一言。自分にはあんな日はやってこないと、限りある命を知っていた夫の胸中を思うと掛ける言葉がなかった。

彼が会えなかった孫は中3と小6になり、流れた月日の長さを思う。アルバムをめくり、「誰?」と夫を指さす孫。会ったことのないおじいちゃんの声が聞きたいと言う孫と、留守電に吹き込んだ夫の声を再生する。記憶は遙か過去にタイムスリップして、あたふたと過ぎていった若かりし日々が蘇る。

夫の死後、母と2人暮らしになったが、その母も4年前に92歳で他界した。3世代6人家族からたった1人残った。幸い67歳まで30余年間塾講師を続け、今は孫と勉強するひとときが楽しい。

娘や孫が弾かなくなったピアノを見て、2年前からピアノ教室へ通い始めた。音楽と同世代の仲間達との新しい出会いが、別世界の高揚感を与えてくれる。

「僕の分まで楽しめよ」と、夫の声がする。

和歌山県 70歳

産経新聞 2019年09月15日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

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