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第32回東京国際映画祭で出会った、いま観るべき映画たち

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第723回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。支配人の八雲ふみねです。シネマアナリストの八雲ふみねが観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

ニッポン放送「しゃベルシネマ」

10月28日~11月5日まで開催された「第32回東京国際映画祭」。私は毎年、司会者として映画祭のサポートをさせていただいています。

チャン・ツィイーがコンペティション部門の審査委員長を務めた2019年は、フラレ・ピーダセン監督によるデンマーク映画『わたしの叔父さん』が東京グランプリに選ばれ、115の国と地域から1804本が応募された作品の頂点に輝きました。また、足立紳監督の『喜劇 愛妻物語』が最優秀脚本賞を受賞するなど、日本映画の健闘も印象的でした。

そこで今回は、八雲ふみねならではの視点で「第32回東京国際映画祭」を掘り起こします。

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現代の日本、そして世界情勢を浮き彫りにする映画たち

『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』は、“パラリンピック”という名称が初めて使われた、1964年11月開催の東京パラリンピック大会の模様を収めたドキュメンタリー映画。

2019年に改めてデジタル修復された本作は、オリンピックイヤーを前に、初のパラリンピック映画として「第32回東京国際映画祭」で上映されました。出場した日本人選手たちの苦悩や障害者スポーツにかける思いなどを通して、当時の日本社会をも浮き彫りにした貴重な映像となっています。

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上映前には、パラリンピック応援大使を務める仮面女子の猪狩ともか、ソフィアオリンピック・パラリンピック学生プロジェクト“Go Beyond”代表の山本華菜子が登壇。

50年以上前に製作された本作に、「昭和の世界にタイムスリップしたよう」(猪狩さん)、「パラリンピックによって海外の人、文化が日本に入ってきて変化して行く様子が伝わって来ました」(山本さん)と、お2人とも刺激を受けた様子。

また、いよいよ間近に迫って来た2020年東京パラリンピックについて、

「同じ国で2回もパラリンピックが開催されるのは、日本が初めて。これをきっかけに、いまより住みよい世界にしたいという思いが、日本の人々に芽生えてくれれば…」(山本さん)

「東京パラリンピックの開催でバリアフリーへの関心が高まっていますが、大会後も関心を持ち続けてもらえるよう活動して行きたいです」(猪狩さん)

…と、胸中を明かしてくれました。東京国際映画祭では、2011年から視聴覚障害者も映画を楽しめる、バリアフリー映画の普及や促進に関するイベントが毎年開催されています。

今年(2019年)はエプソンが開発した、スマートグラス「MOVERIO(モベリオ)」を着用しての上映を実施。この“字幕メガネ”は、バリアフリー字幕、英語字幕、中国字幕のいずれかを表示しながら映画を楽しめる優れもの。本年度末からは、全国100館の映画館でレンタルを開始する予定です。

『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』は、2020年1月17日からユナイテッド・シネマ豊洲にて公開されます。

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“今”の日本映画が概観できる作品を上映する「Japan Now部門」で特集されたのは、「映像の魔術師 大林宣彦」。長年にわたり日本映画界を牽引して来た大林宣彦監督が特別功労賞を受賞し、その贈呈式が行われました。

「映画は役者さんを見るものだけど、きょうは少しだけ僕が主役です」と、茶目っ気たっぷりの大林監督。女優の常盤貴子さんが花束を持って登場すると、「女優さんが来ると盛り上がるね」と続け、観客も笑顔に。

現在、がん闘病中の大林監督ですが、映画製作への情熱はますます高まるばかり。「世界平和を訴える力を持っているのが映画。あと3000年は生きて(映画を)作ります」と力強く宣言し、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。

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そんな大林宣彦監督の最新作は、『海辺の映画館-キネマの玉手箱-』。舞台は、今夜限りで閉館する映画館。最終のオールナイト上映に駆けつけた3人の若者が、戦争映画を観ているうちにタイムリープ。さまざまな映画の世界を体験する姿を通じて、戦争の悲劇性を訴えるというファンタジー作品です。

20年ぶりに故郷の広島県・尾道市を中心に撮影された本作。映画への尽きぬ愛と反戦への想いが詰め込まれた、3時間にも及ぶ一大叙事詩となっています。

『海辺の映画館-キネマの玉手箱-』は、2020年4月に公開です。

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アニメ・特撮の映像文化が国際的に評価されるきっかけや、変化点となった作品を選出する「ジャパニーズ・アニメーション部門」。そのなかで上映された『AKIRA』は、原作者である大友克洋自身による映像化で世界を震撼させた超感覚アニメーション。

『ヒックとドラゴン』を携えて東京国際映画祭に参加したディーン・デュボア監督も、10代のころに出会った本作に影響を受けたことを明かすなど、日本アニメの歴史を語るうえで欠かせない作品のひとつです。

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『AKIRA』がスクリーンに初登場したのは、1988年。東京国際映画祭で、しかも物語の設定と同じ「翌年にオリンピックを控えた2019年」にTIFFで上映されるという記念すべき場に登場したのは、金田役の岩田光央と鉄雄役の佐々木望。お2人が本作にちなんだイベントで顔を揃えるのは、実に30年ぶりとなりました。

「当時は時代が追いついて、追い越すなんて思ってもみませんでした」と佐々木さんが語れば、岩田さんも「(2020年の)オリンピックが東京に決まったとき、『大友さん、預言者か!』と、ネット上がザワつきましたよね」と声を揃え、会場からは大きな笑いが。トークショーのラストには、お2人による名セリフが再現され、客席を魅了しました。

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デビュー50周年を迎えた音楽家・細野晴臣のヒストリーと、知られざる創作活動に完全密着したドキュメンタリー映画『NO SMOKING』。

誰もが愛さずにはいられない“細野さん”の人間味があふれた1作が、「第32回東京国際映画祭」では特別招待作品としてお目見えしました。

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上映後のQ&Aには、自身も子どものころから細野晴臣の大ファンだと公言する佐渡岳利監督が登場。本作のタイトルは『NO SMOKING』ですが、ファンの方ならご存知のとおり、細野さんは大の愛煙家。劇中でも、煙草の煙をくゆらせる細野さんの姿が度々映し出されます。

佐渡監督によると「最近は世界中、どこに行っても煙草が吸えないよね。煙草が嫌いな人の前で吸うつもりはないけれど、世の中、愛煙家にもっと寛容になってもいいんじゃないか」と、細野さんがお話しになったことから、敢えて『NO SMOKING』というタイトルを付けたのだとか。

なるほど、『NO SMOKING』の向こう側には“SMOKE”する魅力が隠れていたんですね。

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世界各国・地域の映画祭受賞作や話題作のなかから、日本公開が未決定の貴重な作品を取り上げる「ワールド・フォーカス部門」。世界中の名作が集まる同部門において特に注目を集めたのが、香港映画界の名匠ヨン・ファン監督初のアニメーション作品となった『チェリー・レイン7番地』。

第76回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門では、唯一のアニメーション映画だったにもかかわらず、最優秀脚本賞を受賞。反英デモが広がりを見せる1967年の香港を舞台に、大学生の青年と、彼が英語の家庭教師を務める家の少女、そして彼女の母親、3人の関係性を甘美に綴ったドラマです。

劇中で描かれている反英デモの様子は、日々報道されている最近の香港情勢に通ずるものもあり、まさにいま観ておくべき作品のひとつ。劇場の客席には、多くの日本の著名な俳優や映画監督もお忍びで訪れていましたよ。

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そんな話題性たっぷりな作品だけに、ヨン・ファン監督のQ&Aは、夜遅い時間からのスタートにもかかわらず白熱。日本語、英語、中国語が飛び交い、中国語はヨン・ファン監督が通訳する(?!)という、ライブ感あふれるものとなりました。

ヨン・ファン監督によると、最近の香港は地下鉄に乗るのも危険な状況。そこで香港での本作の上映はキャンセルして、世界中の映画祭を回っているのだとか。

ヨン・ファン監督は、東京の観客が好意的に作品を受け入れてくれたことに大興奮。Q&A終了後も、ファンの方々との交流を楽しんでいらっしゃいました。

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2019年はゴジラ生誕65周年。ゴジラ生誕の日である11月3日、「第32回東京国際映画祭」の日比谷会場にて、3回目となる「ゴジラ・フェス2019」が開催されました。

日比谷ステップ広場では、ゴジラをテーマにした“Gフード”の販売やゴジラ・ストアの展開、スタンプラリーなど、ゴジラ生誕、そして65周年をお祝いする特別企画を実施。往年のゴジラファンからファミリーまで、多くの人が詰めかけて賑わいました。

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特設ステージでは、「ゴジラ・フェス」ではすっかり恒例となった「居酒屋ゴジラ」も開催。

登壇したのは、数々のゴジラ作品を世に送り出した富山省吾プロデューサーに加え、『ゴジラvsビオランテ』『ゴジラvsキングギドラ』の大森一樹監督、『ゴジラvsモスラ』『ゴジラvsデストロイア』の大河原孝夫監督、『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』『ゴジラ×メカゴジラ』『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』の手塚昌明監督、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』の金子修介監督。

“ゴジラ・レジェンド”たちがお酒を飲みながら、それぞれのゴジラとの出会いや好きな怪獣などについて語りました。トークイベント後半では“ゴジラケーキ”が登場し、会場のファンの皆さんも一緒にゴジラのお誕生日をお祝い。ゴジラファンの熱気に包まれたひとときになりました。

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映画祭最終日のアウォード・セレモニーで、コンペティション部門の審査委員長を務めたチャン・ツィイーは、次のようにコメントしています。

「どんな映画祭も独自の視点や特徴が過去、現在、未来で貫かれています。東京国際映画祭も、今後、世界の国際映画祭のなかで独自の位置づけを獲得できるといいと思います」。

一般の映画興行のように「ヒット」という数字的指標がないため、映画祭全体を“評価”するのは難しいことかもしれませんが、私自身、今回の映画祭では“いま観るべき映画”との出会いの場になったのではないかと自負しています。

チャン・ツィイーから受け取った力強いエールとともに、今後ますます映画文化の発展を担う映画祭として盛り上がることを願っています。

<作品情報>
■『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』
2020年1月17日からユナイテッド・シネマ豊洲にて公開
監督・脚本・撮影:渡辺公夫
解説:宇野重吉
音楽:團 伊玖磨
製作:上原 明
提供:KADOKAWA
公式サイト http://cinemakadokawa.jp/tokyopara1964/

■『海辺の映画館-キネマの玉手箱-』
2020年4月から公開
監督:大林宣彦
脚本:大林宣彦、内藤忠司、小中和哉
製作協力:大林恭子
出演:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子
(C)2020「海辺の映画館 キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

■『AKIRA(1988年)』
監督:大友克洋
キャスト:岩田光央、佐々木望、小山茉美 ほか
(C)1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

■『NO SMOKING』
2019年11月1日(金)からシネスイッチ銀座、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
監督:佐渡岳利
音楽:細野晴臣
ナレーション:星野源
出演:細野晴臣、ヴァン・ダイク・パークス、小山田圭吾、坂本龍一、高橋幸宏、星野源、マック・デマルコ、水原希子、水原佑果、宮沢りえ(五十音順)
(C)2019「NO SMOKING」FILM PARTNERS
公式サイト http://hosono-50thmovie.jp/

■『チェリー・レイン7番地』
監督:ヨン・ファン[楊凡]
キャスト:シルヴィア・チャン、ヴィッキー・チャオ、アレックス・ラム
(C)Farsunfilmcompanylimited
公式サイト http://www.no7cherrylane.com/

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八雲ふみね

映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。
機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。
初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。
トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com

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出典
ニッポン放送第32回東京国際映画祭で出会った、いま観るべき映画たち

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