grape [グレイプ]

発送ミスでお土産が届かず、悲しむ夫婦 迎えた結末に胸がジーン

By - 産経新聞  公開:  更新:

Share Tweet LINE コメント

※ 写真はイメージ

産経新聞で毎日連載中。一般の方から寄せられた600字のエッセー『朝晴れエッセー』。

さまざまな年齢、職業の人々がつづった等身大のエッセーをご覧ください。

もみじ饅頭の思い出

それは2年前の秋さなかの出来事だった。夫婦で厳島神社に出掛けた。宮島は紅葉に染まり錦絵のように美しかった。穏やかな海は引き潮で大鳥居に触れることができた。神社の方角を振り返ると朱色の神殿が遠い平安時代を思い起こさせた。歴史好きの私の横で、妻は今夜の宿の夕食を想像しているふうだった。

宮島はたくさんの人で賑わっていた。表参道はもみじ饅頭を焼くいい香りが漂っていた。ここで箱入りのもみじ饅頭を一箱、会社のお土産に買い、藤沢の自宅に送ってもらうことにした。親切で愛想の良い店主だった。島の宿で広島牛や宮島牡蠣と穴子のはりはり鍋を味わった。旨かった。

翌朝帰宅し、その日は家でゆっくりして次の日に会社に行く予定だった。朝、電話が鳴った。もみじ饅頭を買った店の店主からだった。不手際でお土産を全く違うところに送ってしまった、とのことだった。明日、会社に持っていって社員達に食べてもらおうと思っていたのですが、との私の返事に、申し訳ありません、とひたすら詫びた。私はそのうちに届くだろうと諦めた。

その日の夕方、玄関のベルが鳴った。ドアを開けると、大変ご迷惑をお掛け致しました、と言って、もみじ饅頭を差し出した。あの店主だった。私は驚いた。「えっ、広島から来られたのですか」「はい、新幹線でまいりました」。すっかり恐縮して家に上がってお茶でも、と誘ったが、このまま広島まで帰る、と丁寧に頭を下げ帰って行った。私はきつねにつままれたような気がした。たった一箱のもみじ饅頭のために宮島から神奈川県まで来たのだ。

翌日、会社でこの話をして皆にもみじ饅頭を味わってもらった。皆、こんなに旨い饅頭を食べたことがないと言ってくれた。

神奈川県 72歳

産経新聞 2019年11月26日 ーより

[提供/産経新聞 ・ 構成/grape編集部]

Share Tweet LINE コメント

page
top