【『ファイトソング』感想8話】孤独と向かい合って生きる強さ・ネタバレあり
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2022年1月スタートのテレビドラマ『ファイトソング』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
恋愛に本物と偽物という判定はありうるのか。そしてあるとしたら、互いの心のどこらへんに境界線があるのか。考えだすとよく分からなくなる。
本物と偽物、と言うよりも、きっと誰かが愛おしくて、傷ついて、笑って泣いた質量の違いがあるだけで、またその容量だって個々人で違うだろう。
そして、恋の渦中あるいは恋が終わった直後ではその熱や容量を、自分で客観的に捉えることは出来ないんじゃないかと思う。
タフだけど不遇なヒロインと、優しいけれども冴えない男、一途だが空振りばかりの幼馴染の、行きつ戻りつの三角関係の恋を描いてきた『ファイトソング』(TBS系 火曜22時 主演・清原果耶)。
ヒロイン・木皿花枝(清原果耶)の耳の手術の日が近づき、いよいよ花枝と春樹(間宮祥太朗)の恋の取り組みは8話目で終わる。
花枝は耳が聞こえなくなる前に恋の思い出を、春樹は、曲を作るために心が動く体験を。その恋の形をした経験の終焉に、花枝は自分からお別れ会を提案する。
その場で改めて春樹から「作曲のことは抜きにして別れたくない」と懇願されるが、花枝は自分の気持ちを「私はそこまでじゃないです」と断言し、恋に引きずられて何かを変えたくないと毅然と言い放って去ってしまう(春樹に対しても、視聴者側に対しても、未練や悲しみを見せずに立ち去る演技は実に清原果耶らしい硬質な美しさにあふれていた)。
花枝は入院の準備を淡々と一人でこなし、幼い頃に自分を捨てた父親への想いにもきちんと決着をつける(耳が聞こえなくなる娘が生き別れた父親の声を記憶に残したいと、声だけを求めて友人の助けで電話越しに声を聴くというエピソードは、まるで美しい一本の映画のようだ)。
手術の付き添いは頼んだとしても、頭部にメスを入れるような手術の準備を一人でこなすのはどれほどタフなことか(頼めばきっとみんなが手伝ってくれるはずだし、花枝もそれは分かっていると思うが)。
相手の暮らしに介入せず顔を合わせないまま、一人残った肉親への感情にけりをつけるのがどれほど難しいことか。
終わった恋の相手に、未練を残させないように淡々と切り捨てることが、どれだけ苦しいことか。
それらは『聞こえている人生』に一つ一つ別れを告げるような、彼女なりの丁寧な整理に見えた。
つくづく強いヒロインである。格闘家だから、不遇に負けないから強いのではなくて、孤独を恐れず、孤独と無理に闘わず、それに寄り添って生きられるから強い。
手術のことを頑なに周囲に言い出せずにいた時には、強いというより硬いと思ったけれど、手術のことを大切な人たちに打ち明けて気持ちの窓を開いて、本当の意味で花枝は強くなったのだと思う。
木皿花枝のヒロイン像は、これからの若い世代における自立と社会との関わりの、理想のひとつを体現しているのかもしれない。
花枝は手術を受け、春樹は傷心の苦しみの中で曲を書き上げる。糸のような僅かな望みを掴むように、曲が出来たことを知らせにやってきた春樹の前に立ち塞がったのは慎吾(菊池風磨)で、「もう二度と花枝に関わらないで下さい」と春樹をぴしゃりと追い返すところで8話は終わる。
これまではいつも愛嬌があって、恋敵であるはずの春樹に対しても甘いところがあった慎吾の、本気の拒絶には重みがあった。
花枝と春樹のお別れ会の前、慎吾は春樹に花枝の隠し事について「踏み込んで聞け」と促したが、結局春樹はそれを聞けずじまいになった。
相手が話したくないことは聞かないという春樹の優しさがそうさせたが、花枝からコミュニケーションの中でそれを引き出せなかったのも、今はそれまでの縁ということなのかもしれない。
花枝と春樹は別れ、この回で時間は一気に二年とぶ。
花枝の手術の結果はわからない。春樹の曲がどうなったかも、まだわからない。
短い期間に乱高下した想いも、長い時間をかけてじわじわと上ったり下りたりしていく想いも、心が動いた分、位置エネルギーのように結局は何かの力になって自他の人生を動かし温めるものだと思う。
2年を経た花枝と春樹の人生の中で、あの恋はどんな形、どんな温度になって残ったのか。次週が待ち遠しい。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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