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【エルピス 第6話 感想】一人で事件を追い続ける岸本 見えてきた構図に最終章への扉が開く

By - grape編集部  公開:  更新:

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Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。

2022年10月スタートのテレビドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系)の見どころや考察を連載していきます。

松本良夫(片岡正二郎)が犯人だとする西澤(世志男)の証言は本当なのか。その問いに「嘘です」と答えたのは西澤の元妻・由美子だった。

この逮捕の決め手となった目撃証言が覆され、再審の可能性が一気に浮上し、浅川恵那(長澤まさみ)と岸本(眞栄田郷敦)は一層勢いづく。

だが浅川はもう『フライデーボンボン』で扱えるネタの範疇を超えているとして、今後は報道部に任せるつもりだった。

取り扱う手段や媒体によって事の重みというものは変わってしまうものだ。

一個人が声を上げようが誰にも注目されないまま放置されていくように、事実にはそれに見合った大きさの器がある。

事実を正しく広めていく方がよほど大切だと浅川も考えていた。

しかしチーフの村井(岡部たかし)はそれを遮り「うちでやる」と宣言する。浅川が説得するも村井の強気な姿勢は変わらなかった。

村井も以前は報道にいた人間で、報道魂を燃えたぎらせ覚悟を決めていたのだ。

そして『フライデーボンボン』での運命の放送が始まる。

もはやいつものフライデーボンボンのおちゃらけた雰囲気は無く、冒頭から目撃証言に関する特集映像が流れ始める。

「死刑が確定している松本良夫死刑囚には、冤罪の可能性が強まったことになります」

それは瞬く間に日本中に広まっていく。

情報提供した由美子、嘘の証言をした西澤、松本を思う大山ことチェリー(三浦透子)、報道の斎藤(鈴木亮平)がそれを見守っていた。

あれだけ一喜一憂していた視聴率もどうこう言ってる場合ではないほど、反響は想像を超えた。他局や新聞をはじめとするメディアが次々と取り上げた。

すると由美子や家族のもとにマスコミが押しかけ、しまいには西澤は逃亡し、証言を得られなくなってしまった。

浅川たちはいかに甘かったかを思い知らされることとなった。

そして社内の緊急幹部会が行われ、上層部が決めたのは、『事件を追っていた記者』としての浅川の『ニュース8』出演だった。

アナウンサー・浅川恵那がかつて輝きを放っていた、あの場所だ。

浅川に届いた、斎藤のメッセージ

この凱旋出演に、浅川は手放しで喜ぶことができなかった。

斎藤が副総理の大門(山路和弘)と繋がっていると知ったときから、斎藤を通じて大門から当局に圧力をかけられたのではないかという疑念を抱いていた。

出演前に浅川のもとを訪ねてきた村井もそれが気がかりだったと言う。そして浅川に今日の出演を取り止めてもいいという提案をする。

村井は斎藤と関係を持つ浅川と、アナウンサーとしての浅川を救うため、逃げ道を照らそうとしたのだ。

しかし、「もう逃げも隠れもしない」と浅川は断る。

「この仕事は、私です。丸ごと今の私自身なんです」

その時、浅川のスマホの通知音が鳴る。それは斎藤からのメッセージだった。

「オンエアの後にしようかと思ってたけど」という内容。それに続く言葉が、浅川の頭の中で渦巻いて見えていた。

わかっていても、放送前にその続きを読む覚悟はなかったため、浅川は村井にスマホを託し、一人スタジオへ向かった。

大事なことは言わないくせに、メッセージは無駄に刻んで伝えてくる斎藤による通知音が鳴り響く。

その通知音を消せず文句を漏らす村井が一人その場所に残される中、浅川は、『ニュース8』に出演を果たした。

放送終了後、浅川は続きを見る。そこには「ここまでにしよう」という言葉が綴られていた。

斎藤は報道という器から溢れてしまった。その器が自分がいる場所ではないことが、最初から決まっていたかのようだった。

そして浅川は斎藤との間に出来、た決して埋められぬ溝を必死に取り繕ってきた。だが斎藤から送られるサインの本当の意図を、背中合わせの浅川は見ることは叶わないのだ。

いつか目の前に訪れる別れという終着点を迎えるために、一本道をひたすら歩いた。

そこは斎藤の甘い優しさに包まれていて、足先が元いた場所に向く瞬間は、浅川に訪れることはなかった。

それでも決めた『ニュース8』への出演。それが意味するものは別れだった。

「それでもそういう君をこそ、俺は好きだった」

斎藤の最後の言葉を目にして、浅川は一人で泣き叫ぶ。その裏で斎藤は今日も、大門の横で笑みを浮かべるのだ。

バラバラになった元『フライデーボンボン』のその後

そして番組は改編期に合わせて打ち切りとなった。だがMCの海老天(梶原善)は続投で『ウィークエンドポンポン』が後番組に続き、スタッフも大体がそのまま残留。

番組がリニューアルしただけのようだが、会社としてはケジメをつけたことを世間、そして大門に示す必要があったのだ。

一方、村井は関連子会社へ飛ばされ、岸本は経理部への異動が決まっていた。

番組陣での最後の宴会が行われた。誰もこんな番組の宴会の最後が、和やかな雰囲気になると思ってなかっただろう。

誰も何も期待しない、そんな昨日を繰り返すようなぬるま湯の『フライデーボンボン』の雰囲気は浅川と岸本、あの冤罪事件を中心に変わっていったのだろうか。

浅川と岸本が歌う『贈る言葉』を聞きながら、村井をはじめ製作陣が流した涙や笑顔が、この10年間を『墓場』に捧げた、彼らなりの執着点そのもののように見えた。

ついに浅川は、メインキャスターとして『ニュース8』の舞台に返り咲いた。それからというもの、浅川の毎日は、オンエア中心の生活になった。

1秒も待たずに変化していく世界に追いつくのに必死だった。浅川には、時間がなかった。

今も一人で事件を追う岸本からの電話を即刻遮ってしまう。

報道っていつも必要以上に忙しい、忙しい、時間ないふりして。

浅川は自分自身に問う。忙しいふりをして大事なことを忘れようとしているだけなのだろうか。

第一話で浅川が報道に対して発したこの言葉が自分に返ってくる。

上層部はこれが狙いだったのかもしれない。目紛しく回る報道に浅川を置くことで、あの事件に関して無駄な詮索ができないようにさせたのだ。

新たな問題は、別の問題を隠して、闇に埋もれさせ、見えなくさせる。

情報が広まるのが著しくはやいこの時代でそれは表裏一体となる事実なのだ。

新たなものが積み重なって、奥にあるものを直視できる時間が減っていく。

綺麗な空気に触れる時間が削れて、真実は朽ちて、風化し、忘れ去られていくのだ。

そして問題を追う者の心も同じ結末になる可能性すらある。

皆、冤罪事件を追っていてもジャーナリズム精神だとか、上に良い顔したいからだとか、自分が自分で居続けるためにだとか、松本のために冤罪を暴くことが根底にある者は少ない。

方向を見失えば、真実は簡単に朽ちていってしまうのである。

最終章へとつながる、巨大な構図

そして岸本は一人でも新たな情報を探しに、連続殺人事件が起きた八飛市の商店街の喫茶店を訪れていた。

そこで耳にしたのは、大門が副総理になってからというもの八飛が本城建託の土地の天下になったという話だった。

岸本は商店街のあの場所を訪れる。浅川が謎の男と会った店は、貸店舗となっていた。そしてその横には大門のポスターが貼られていた。

大門は八飛市出身だったのだ。

ついに見えてきた巨大な構図。浅川達は新たな情報を掴めるのか、今後も目が離せない。


[文・構成/grape編集部]

出典
エルピス ―希望、あるいは災い―

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