【エルピス 第8話 感想】岸本が目にした、世界の残酷さの中に残された一抹の希望
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快挙を成し遂げた狩野英孝、帰国便の搭乗券をよく見ると… 「さすがJAL」の声ホノルルマラソンから帰国する狩野英孝さんに、JALが用意したサプライズとは…。
ロケで出会う人を「お母さん」と呼ぶのは気になる ウイカが決めている呼び方とは?タレントがロケで街中の人を呼ぶ時の「お母さん」「お父さん」に違和感…。ファーストサマーウイカさんが実践している呼び方とは。
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Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。
2022年10月スタートのテレビドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系)の見どころや考察を連載していきます。
見つめられただけで体が動かなくなる。これ以上近づいてはならないとわかっていても、光をも映さぬその真っ黒な瞳に吸い込まれそうになる。
そんな魅力で籠の中に閉じ込める危険な男が、この世の中には存在する。
浅川(長澤まさみ)が八飛市の商店街の怪しげな店で会った長髪の男もそうだった。
岸本(眞栄田郷敦)の調べで、大門副総理(山路和弘)の有力な支援者である本城建託社長の長男・本城彰(永山瑛太)だとわかる。
そして新聞記者の笹岡(池津祥子)の協力により、本城彰には八頭尾山での井川晴美殺害から中村優香の事件が起こる直前まで、海外を転々としていた記録があることが判明。
大門が本城建託絡みの不祥事を強大な力でねじ伏せ、事件を起こすたびに彰を海外に逃亡させて来たことが容易に想像できる。
しかし中村優香の客のリストにも本城彰の名前はなく、殺害された少女たちがどうやって彼と出会うのかが疑問だった。
地元の女性たちによると、陰や魅力的な色気を纏いながらも挨拶はしっかりとするモテ男として評判だという。
だが岸本にはその話を聞いても、危険なのに惹かれてしまう意味が理解できず、思わず「女、マジわかんねえ」ともらすのだった。
聞き込みで手にした事件解決への道
岸本は聞き込みの中で、最後に殺された中村優香と親しかったという高岡ひかるにたどり着く。
ひかるにいくつか質問している中で、当時二人は同じ人物に好意をよせていたことを話し始める。
彼女達は名前もわからぬまま、その男がやっていたという店に会いに行き、色んな話をしてくれる大人の魅力に惹かれていた。
そして自分を出し抜いてプレゼントまでもらった優香と喧嘩となったまま、その後、優香は殺害されたのだ。
岸本の頭に、その男の顔がすぐ思い浮かんだ。
鼻血なんか垂らしてる場合ではないのだが、岸本は堪らなく興奮した。
確証もなく、女子中学生の気持ちも未だ理解はできないが、その男の影がすぐそこに見えてきた。
だが、ひかるからその男が本城彰である決定的な写真を見せられても、それ以上は何も言わなかった。
優香が亡くなった場所で手を合わせ涙を流すひかるに、「元気出して、優香さんの分も」と優しく声を掛けた。
岸本も友情を自分の手で壊してしまった過去に苛まれてきたからこそ、大切な友人が好きな人に殺された可能性があると告げることをやめたのだろう。
岸本はそれからも一人、決定的な証拠を掴むために粉骨砕身する。
平川刑事(安井順平)から写真データをもらっていたが本城彰の写真を抜いて渡したと睨んだ岸本は、平川を問い詰める。
はぐらかしてその場を去ろうとする平川に、内部告発を持ちかけてきた会話を録音したと、まさかのハッタリで証拠提出を強要する。
それを信じた平川だったが、岸本の息はかつてないほど荒かった。
目の前のことに一生懸命に突っ走るところが彼の良いところなのだが、後先は考えない相当に愚直な男だと言える。
だが、誰かの救いになっているとわかれば後には引かない。晴美の姉・純夏から感謝をされた時も、その正義感が岸本を突き動かしていた。
優香の自宅を訪れた際、母親の涙を見て、またそう決心するのだ。
そして彰に貰ったというストールを預かり、3つの研究機関にDNA鑑定を依頼すると、検出されたDNAが晴美のスカートから採取された型と全ての機関で一致。松本死刑囚(片岡正二郎)の冤罪証明に一歩近づいた。
岸本がとった『秘策』
しかし、ここから状況は一変していく。
岸本は浅川がアナウンサーを務める『ニュース8』にこのネタを持ち込んだが、ディレクターの滝川(三浦)から告げられたのは、正式な警察発表ではなく、他の報道もやらない限り大々的に公表はできないという返答だった。
本城彰にDNA提出を依頼できるのは警察だけなのだが、直接持ち込んだとしても揉み消され終わる未来しか見えない。
冤罪特集をした時のように、それで少しでも世論が動けば奇跡が起きる可能性が高まるのだが、国家権力の息がかかる『ニュース8』で、それは叶わなかった。
この腐り切った構図は簡単に変わるのものではないことを岸本も浅川も身をもって体感してきた。
理由も明かされぬ放送直前の差し替えも配慮だと言われ、それが忖度であることを認めない報道の中で、浅川は、今を必死に生きていた。
そしてただのテレビ局の経理部員となった岸本も、真実を追究しても自分で発信できる場所はなく、誰かに預ける他、選択肢はなかった。
おかしいものにはおかしいと声を上げることが大事であると繰り返し叫ばれていても、実際は声を上げる者の立場によってその真実が持つ重みは変わり、与える影響も違ってくる。
浅川が初めて彰に会った時にかけられた『物事はそれが語られるに相応しい位相を求めるもの』という言葉を思い出してしまう。
こうして真実を語る叫びは、いくつも闇に葬られてきたのである。
結局、岸本はそのまま会議室を出て行ってしまったが、浅川も全て諦めたわけではなかった。
他でやれば後追いはできるという方針を利用し、村井(岡部たかし)の紹介で、週刊誌の編集長・佐伯(マキタスポーツ)にネタを提供するという秘策に出た。
だが岸本は、週刊誌も信じられない思いだった。
浅川から「できる限りのことはする」と言われたが、もう隣で共に事件を追ってくれようとしない浅川を突き放し、反論する。
そして言い合いの中で浅川が放った一言が澱み始めた二人の空気を一層重いものとした。
「君はお金持ちのお坊ちゃんだからさ。だからそんな理想言ってられるんだよ」
守るべきものがあると弱くなるとはこういうことなのだろう。浅川は背負うものが違うと一方的に線を引く。
そして真実を報道しないことを「妥協」だと言った。身に覚えのない罪を着せられたまま生涯を終える人を見捨て、立場を守ろうとする浅川の態度を岸本は許せなかった。
だが、それでも岸本は『今は一人で』突き進んだ。
絶望だけでは終わらないラスト
週刊誌は無事に校了を迎えた夜、全てが壊れる。
『ニュース8』から流れたのは、優香の売春を斡旋したという容疑者が逮捕されたという報道だった。
記事は直前で流れた。優香が被害者であるという事実は置き去りにされ、中学生で風俗で働いていたなど自業自得だという世論に一瞬で変わった。
同じ目に晒される懸念から、被害者遺族の結成の記者会見も中止となった。
そして岸本は、平川刑事を脅迫した疑いで解雇通告を受けた。
岸本は涙を流す。全然わからない女心より、『浅川恵那』だけは簡単に信じることができた。自分を突き動かし、正しい中で生きることを教えてくれた彼女の存在が何よりの原動力だった。
今は一人でも、きっと帰ってきてくれる、そう信じて…。
岸本は、失くして初めて知ったのだ。この世界の絶望と、信じられる相手の尊さを。
だが、絶望だけでは終わらなかった。
岸本が退社する日、『武田信玄』が走ってきた。正体は第一話の冒頭の現場で主演を務めていた桂木(松尾スズキ)なのだが、会ったことも忘れかけていたその他大勢の一人から、岸本は応援の言葉をかけられる。
「マジで世界って訳わかんねえ」
きっと誰か信じてくれる人がいる。それは予期せぬ人物だったりする。
訳のわからないことばかりで溢れた世界の残酷さの中に残された一抹の希望に、岸本は微笑んだ。
[文・構成/grape編集部]