【考察】岡田将生が表現する繊細な文学性 『田鎖ブラザーズ』第5話
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かな
SNSを中心に、注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している。
NHKの朝ドラ、大河ドラマを中心に、幅広く視聴。
『TOKYO MER』『最愛』『19番目のカルテ』『ちょっとだけエスパー』などのレビューを執筆。
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SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2026年4月スタートのテレビドラマ『田鎖ブラザーズ』(TBS系)の見どころを連載していきます。以下、ネタバレが含まれます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
テレビドラマのファンにとって、TBSの金曜日22時のドラマは、多くの良作を生み出してきた手堅い枠だ。
『夜行観覧車』『家族狩り』『わたしを離さないで』『アンナチュラル』『俺の家の話』『最愛』、近年では『ライオンの隠れ家』。
その名作の多くは心沸き立つラブストーリーや豊富な資金をつぎ込んだ華やかなドラマではないけれども、どっしりと厚みのあるヒューマンドラマであり、個人的にはその最たる特色は文芸の匂いがすることだと思っている。
小説やコミックを原作とする映像化はもちろんのこと、オリジナルの脚本作品であっても行間を丁寧に描き込んだ文芸作品の雰囲気が漂う。映像の持つ情緒も独特だ。
そして『田鎖ブラザーズ』もセリフの行間には感情が浮かび、画面からは潮風と油と錆の匂いが生々しく漂ってくる。
今作もまた、そういった金曜22時の名作群の一つとなるだろう。
岡田将生の名演が光る
兄・田鎖真(岡田将生)は神奈川県警青委署の刑事、弟・田鎖稔(染谷将太)は神奈川県警本庁の有能な検視官。
警察官の兄弟は、幼い頃に両親を何者かに殺害された過去を持っていた。
わずか二日の期限で、その殺人事件は公訴時効にかかり、今は既に捜査も終了している。
だが兄弟は犯人を探し出すことを諦められず、未だに事件を調べつづけていた。
事件に深く関わっていたジャーナリストの病死で、一見手がかりが途絶えたかのように見えたが、兄弟はその遺品をたどるうちに自分らの父親が密造拳銃を隠し持っていたことを知る。
幸か不幸か、どうしてもその容姿の美しさが記憶に強く残ってしまう。岡田将生という俳優について大きなターニングポイントの一つは2018年の『昭和元禄落語心中』(NHK)だったと思っている。
岡田はこのドラマで大名人と称された落語家の、若き日から老齢までという難役を演じた。
大切な人を失いつづけて孤独の中で身につけた芸能の深み、江戸の下町言葉に裏打ちされた艶っぽさ、皮肉屋でとっつきにくい素顔。繊細なレースを編むような細心さと執念で、岡田将生は噺家名人の人生を生ききったのである。
伝統芸能の名人を血みどろの努力を尽くして演じきり、俳優として余人の追随を許さない高みに跳ぶという意味で、今まっさきに浮かぶのは映画『国宝』の吉沢亮だが、2018年の岡田将生もまた同じように苦闘していたのだった。
その後、岡田は映画『ドライブ・マイ・カー』やテレビドラマ『地震のあとで』((NHK)といった村上春樹原作作品で重要な役を堂々と演じ、坂元裕二や野木亜紀子といった感情の機微の表現を求められる文学性の高い脚本家たちの作品でも要となる役柄を任せられている。
努力と苦闘の先に、岡田将生は人間の複雑さを体現できる俳優として、独自の立ち位置を手に入れたのだと思う。
その演技の力が、金曜22時の『田鎖ブラザーズ』にピタリとはまっている。
今回が第5話、ドラマ全体としても折り返しにさしかかっている。
5話で描かれた事件は、貧しさが大学受験を不利にするという背景から起きていた。
子に降りかかった社会の不条理を、親が暴力的な方法で復讐しようとするという骨組みは、最初の部活動を発端にした事件に近い。
親子の愛情が社会の不条理とぶつかり合った時の軋みが繰り返し描かれているのだとしたら、31年前に殺された父・田鎖朔太郎(和田正人)もまた、家族への愛情で逃げられぬまま何かに巻き込まれたのではないだろうか。
幼い兄弟が父に連れられて見た工場の夜景は、荘厳に煌めいていた。
2026年の今、兄弟が見つめる同じ夜景はどこかしらくすんで沈んで見える。
そんなエモーショナルな情景の演出も、このドラマのベースであり魅力だと思う。
[文/かな 構成/grape編集部]