【『最愛』感想 9話】愛情をふりほどき真実に向き合うとき・ネタバレあり
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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2021年秋スタートのテレビドラマ『最愛』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
一瞬の、感情を読ませない毅然とした表情に惹かれる。本来、喜怒哀楽を発散する朗々としたエネルギーが魅力的な吉高由里子だが、時にふと表情を押し殺す瞬間がある。
それがとても美しいと思う。吉高が主人公の村岡花子を好演した朝の連続テレビ小説『花子とアン』(NHK)でも、妹のもも(土屋太鳳)から恵まれた境遇を妬まれて責められた時の、困惑気味に表情を殺した場面の美しさが強く記憶に残っている。
今作『最愛』でも、自分に向けられる他者の感情に困惑する時、動揺を押しころす時の吉高の表情はいつも美しい。
そしてこのドラマの初回、無表情に血に濡れた指で髪をかきあげる仕草もまた、息をのむほどに素晴らしかった。
宇多田ヒカルの『君に夢中』が流れる印象的な場面
ついにここまで来たという感慨がある。
サスペンスとしての考察、ラブストーリーとしての盛り上がり。どちらも高い水準で維持しながら最終回のひとつ手前に辿り着いた『最愛』(TBS系 金曜22時 主演・吉高由里子)。
今回9話のラストシーンで、初回冒頭、主人公の真田梨央(吉高由里子)が血塗れの指で髪をかきあげながら警察に連行される場面に繋がった。
それはおそらく物語が始まった当初、自分も含めて、視聴者の大半が想像していた内容とは違うものではあったけれども、梨央が全てを失おうとしている瀬戸際であることは変わりない。
このドラマの主題歌『君に夢中』(宇多田ヒカル)は、毎週1回、印象的な場面で流れている。最終回を前に、改めてそれぞれの回のどこで流れているのかを確認したい。
1話目は梨央が父・朝宮達雄(光石研)の死後、駅伝の最中に白川を離れる場面、宮崎大輝(松下洸平)が走る姿を確かめて迎えの車に乗るところ。
2話目は大輝が梨央を引き寄せた瞬間に菓子が潰れて大輝のシャツにべったりついて、よそよそしかった2人が溢れるように喋りだす場面(ここは本当に見ている側が一瞬虚を突かれ、そして緩やかに気持ちがほどけていくような美しい場面だと思う)。
そして3話目は暴漢に襲われた加瀬(井浦新)の治療を待つ病院の待合室、梨央が友人のようでいられたらいいのにと大輝に本心を明かし、2人のわだかまりが解けていく場面。
4話目は梨央と警察に追われている弟の優(高橋文哉)がビルの屋上で再会を果たす場面。
5話目は白川の大学寮で父親の達雄が残した動画が流れる中、梨央と優、そして大輝が慟哭する場面。
6話目は優の殺人の容疑が晴れ、もう互いに会わないと梨央と大輝が決心した時の抱擁。
7話目は優の機転で会わないと決めていた梨央と大輝の2人が再会する場面。
8話目は逃げた後藤(及川光博)を追って辿り着いた別荘で加瀬が梨央への想いを語る場面。
そして9話目は母親の梓(薬師丸ひろ子)が会社の不祥事を全て1人で被り、娘の梨央を庇って記者会見を行う場面。
いずれも、それぞれの人物がそれぞれの方法や言葉で、梨央に愛情のベクトルを示す場面である。
中でも、5話の父親の達雄が渡辺康介(朝井大智)殺しと死体遺棄は自分1人で行ったと動画で語りかける場面と、9話で真田梓が会社の寄付金詐欺は自分1人の責任であると画面越しに語りかける場面は対になっており興味深い。
画面越しの嘘と隠蔽が愛情表現で、とりわけ梓はそのような形でなければ娘の梨央に愛情を贈れない不器用な母親である。
今回、富山県警で刑事をしている藤井隼人(岡山天音)と梓が会っている場面が描かれた。本来なら接点のない2人である。
そして藤井はある意味『15年前』を象徴する登場人物でもある。その2人に接点があるということは、梓が15年前の事件にも何かの関わりがあるということに他ならない。
15年前に隠蔽された1つの事件が、いつまでも塞がらない傷のように血を流し続けて、現在に消せない染みを広げつづける。あの日殺された者の人格がどうあれ、その真実が明らかにならない限り結局『今』も『未来』も無い。
今回のラストで警察に向かう梨央は、心配して同行すると申し出た弁護士の加瀬に毅然とした表情で「1人で大丈夫」と断言して顔を上げる。
それは、これまで愛されて大事に包まれたがゆえに真実から遠ざけられ、そのことに15年苦悩し続けた女が、どんなに苦しく悲しくても、1人で立って真実に向かい合うと決心した瞬間である。血にまみれた指でかまわないと腹をくくった瞬間である。
そして、物語はいよいよ真実の扉の前に立つ。辛くとも、悲しくとも、見届けたい。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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