【石子と羽男 第5話 感想】今を生きる全ての年代の人へのエール
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Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。
2022年7月スタートのテレビドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。
人間はいつかこの世にさようならを言う日がやってくる。
大切な人に想いを伝えられないまま、朝日を出迎え、夜を受け入れることを繰り返し、老いていく。
きっと今日もどこかで誰かが、自分には「もう遅い」と夢を諦めていくのだ。
第5話では『相隣紛争』の裏に隠された想いを描くと共に、この時代を生きる全ての年代の人へのエールが送られた。
今回の依頼人は行きつけのそば店で働く塩崎(おいでやす小田)。
綿郎(さだまさし)のおしゃべり仲間だが、今回は重大な相談事を抱えているようだった。
話を聞くと、塩崎の叔父・重野義行(中村梅雀)が、隣の家の木が自宅にまで伸び、毛虫が大量発生して困っているという。
早速、石子(有村架純)と羽男(中村倫也)はその隣人・有森万寿江(風吹ジュン)に枝を切除することをお願いしに行くも、有森はすんなり了承し、この案件は一件落着かと思えた。
しかし後日、塩崎が事務所に駆け込むなり叫んだ。
「おじさん、裏の人に訴えられたって!」
なんと万寿江から、重野のピアノの騒音に悩まされたことへの謝罪と慰謝料を要求する書類が届いたのだ。
確かに騒音問題はよくある相隣紛争の事案で、普通の生活音ですら訴えられることもある。だがこれは、自らの穏やかな暮らしを守るための訴えだと考えると、決して見過ごせない問題だ。
しかし今回は、虫への苦情が来たことへの腹いせのように思えてくる。
石子は、万寿江に相当なプレッシャーを与えた代償ではないかと、頭を抱え悩んでいた。
そんな時、羽男からまさかの言葉をかけられる。
「君、もういいよ。マジで。出しゃばりすぎじゃない?」
石子は弁護士の方針に従うべきパラリーガル。だが、ようやく息が合ってきたと思い始めたときに告げられ、ショックを受ける。
相棒となった石羽コンビにまさかの『相棒紛争』の危機が訪れるのだった。
しかし、羽男に「事務所で経理をやれ」と言われて大人しくしていられる石子ではない。お金をもらう以上は依頼者のために尽くす、それが『私のルール』なのである。
石子は早急に事務を済ませ、大庭(赤楚衛二)が頼まれた調査に同行したが、その帰り石子が突然腹痛を訴える。
大庭に担がれ向かった病院で、卵巣のう腫の疑いがあると診断される。しかし、人に余計な心配はかけたくないという石子の優しさと頑固さで、冷房の当たりすぎと嘘をついてしまう。
それを聞いて安心する大庭は、カイロを持つタイプと貼るタイプの両方を買ってきたり、レンタカーを借りたり、石子を目に見える優しさで包み込む。石子は笑みを浮かべ、素直に感謝を伝えた。
そんな大庭の逆の優しさを見せるのが、羽男だ。
言いつけを守らず調査に出る姿を見て、呆れた顔をする羽男だったが、石子が体調を悪くしていることにとっくに気づいていた。出勤が遅れるという置き手紙で病院に行ってきたことも察するくらいだった。
そんな不器用な優しさに気づくことができるはずもなく、石子は同行を認めようとしない羽男を言葉でまくし立てる。
初めは「やだ」と駄々をこねる子どものように断る羽男だったが、嘘をつき続けるのも限界だった。
「休め」と言っても絶対に聞かない石子に無理させないため、わざと厳しい言葉をかけていたのだ。
羽男が心配してくれていたことを知って、石子は溢れ出す涙を拭う。
相手のことを考えた優しさは目に見えるものだけじゃない。大丈夫じゃないのに、大丈夫だという遠慮によって、相手にかえって申し訳ない気持ちさせないための気遣いだって、優しさだ。
そして、検査の結果、良性の腫瘍だとわかった石子はいつも通りのやる気満々な姿を見せる。
それに「元気なら元気で面倒くさいなぁ」と笑う羽男だったが、石子の言う通り、天才を象っていた髪も服もいつの間にかラフに変わっていた。
お互いの足りない部分を補い合い、傷ついた心も癒す二人は、誰がなんと言おうと『相棒』だろう。いつも罵り合いつつも、二人らしく解決するのが最強の石羽コンビなのだ。
そして今回の訴えは、司法書士だった町内会長が内容証明を作成したことが判明。これには法的な拘束力はないものの、重野は、万寿江が話す気がないなら満額を払うと言い出す。
実は二人には面識はないと言っていたが、一緒に映画を見に行くほどの仲だったのだが、疎遠になり、数ヶ月会っていない状態だったのだ。
重野が敷地に侵入する枝葉や虫をずっと放置していたのは、今更会わす顔がないと思っていたからなのであろう。
一方の万寿江は違った。
万寿江は、何も口に出さない重野の優しさを誰よりも知り、心惹かれていた。
だがたとえ疎遠になったとしても、弁護士を介してではなく、直接伝えに来て欲しかったのだ。今回の訴えも、会長に不本意に進められていただけだった。
こうして無事に内容証明は取り下げられたのだが、石子と大庭は、想い合う二人がこのまま疎遠でいることを心残りに思っていた。
そして羽男も巻き込み、3人は重野が万寿江に会わなくなった理由を探り当てたのだった。
重野は慢性腎不全を患っていた。万寿江に会わなくなったのも、これから衰えていくだけの自分が迷惑になると感じていたからだ。
「高齢者が恋なんてみっともないでしょう?」
重野はそう言い、寂しそうに笑う。そこで一番に声をかけたのが、今、全力で石子に恋をする大庭だ。
「好きな人には好きって言っていきましょうよ。何歳だろうがいいじゃないですか!」
誰にだって健康診断の結果を知るのが怖くなる日がやってくる。
お酒に弱くなり、朝の目覚めが謎に良くなって、物忘れが多くなるのを感じる日が来る。
そういった歳を重ねることへの恐怖が、いつの日か、愛おしく思えるようになれたら。
そう願う人々が、いくつになっても自分らしく楽しく生きている人を素敵だと感じるのは、自分の未来こそ、年老いた者達の今だからなのだろう。
大人のはずの羽男が、大庭の恋の行方を中学生の修学旅行の夜みたいに思いっきり楽しんでいたように。
子供のようにはしゃぐのも、恋を楽しむのも、新しい日々を受け入れ、新たな気持ちと出会うのに、遅すぎるということはないのだ。
「高齢者の方々は人生を楽しむ義務があるんじゃないですかね?」
羽男の言葉に、重野は生前整理を進める事を決意する。
重野は一歩踏み出す。何度も練習した、万寿江が大好きな曲を奏で、やってくる素敵な未来を想像するのだ。
救いの手はそこにある、何歳でも遅くはない。歩む道や時代、一歩を踏み出す歩幅が違くても、エンドロールはまだまだ先だ。
そして大庭も、石子に想いを伝える。
第5話で描かれた、大切な誰かに、今、想いを伝えること、何も言わない優しさ。
依頼人と主人公達の関係性がこのテーマで上手く交差し、私達へささやかな希望を与えてくれただろう。
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『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』/TBS系で毎週金曜・夜10時~放送
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[文・構成/grape編集部]