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【TOKYO MER感想 第3話】ただ目の前の命だけに向き合うということ

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2021年夏スタートのテレビドラマ『TOKYO MER』の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

連続ドラマの序盤の2回は自己紹介。挨拶のようなもの。本当に面白いかは中盤に入ってから。

第1話、第2話と好評を維持している『TOKYO MER』。勝負の第3話は、このドラマのコンセプトである『医療従事者への敬意と感謝』が色濃くにじむストーリーとなった。

菜々緒演じる蔵前夏梅にフォーカスがあたった『TOKYO MER』第3話

今回のエピソードのメインは、菜々緒演じる、有能な救命看護師の蔵前夏梅。冒頭でシングルマザーであることが描かれている。

このドラマでは、今のところ明確にはコロナ禍の描写はない。

しかし、夏梅が娘を保育園に送り届けるシーンで、感染症を不安がる、ほかの親たちからのクレームが夏梅に伝えられ、医療従事者に対する差別が存在する社会であることが分かる。

そんな中での今週のMERの出動は、元妻・娘へのDVを発端とした男の銃撃・たてこもり事件であった。

男は無理心中をはかり、元妻に一方的に重傷を負わせた上、一型糖尿病とアレルギーの持病をもつ幼い娘を人質に立てこもる。

低血糖発作とアナフィラキシーを併発し、生命の危機が迫る人質の少女を救うべく、夏梅は看護師として凶暴な立てこもりの犯人の人質となり対峙する。

この立てこもり犯を演じる、川島潤哉の狂気を帯びた演技が凄まじい。小心な男の自我が傷つき肥大した挙句、暴力性に歯止めが効かなくなったおぞましさに満ちていた。

重傷を負った元妻が「暴力が酷くて(逃げた)」と簡単に説明する以外、この男の来歴についても詳しい描写はない。

ただただ情けなさとそれ故の自暴自棄さが恐ろしいのである(今回はこの犯人役の川島潤哉も、警察の特殊部隊の職人気質な隊長を演じた山田純大の演技も素晴らしかった。スポットの演技が活きるドラマは強い)。

コロナ禍の社会状況と医療従事者にシンクロした描写

何とか粘り強い交渉の果てに、時機を見て人質の少女を逃した夏梅だったが、今度は特殊部隊の隊員の1人を犯人の銃撃から守るため、再び1人で人質に戻っていく。

個人的には、今週の放送で一番印象的だったのは、夏梅が人質として戻る直前にその隊員の重傷を判断し、チーフの喜多見に「あと30分ほどです!」と救命可能なリミットを絶叫して伝えた場面だった。

患者に触れて即座に得た情報とトリアージして下した判断が、救急の初動においてどれほどの重要な価値を持つか、まざまざと伝わるシビアな場面だった。

そして再び人質として戻る恐怖を押し殺し、「必ず助けが来ますから」と重傷を負った隊員に労りの声をかけるシーンの痛ましさには息苦しくなった。

今作ではチーフの喜多見も、とにかく救命治療の最中に患者の暮らしや人柄にまで届くような励ましの言葉をかける。それだけ救命救急にはスピードと同時に患者自身の気力が重要だということなのだろう。

最後に自らも重傷を負い、「殺せ」とウソぶく犯人に、夏梅は「ぶん殴ってやりたいけど治療が面倒だからやめとく」と怒りを抑えて応じる。報われないことも届かないこともあるが、どこまでも彼女は『治したい』看護師なのだった。

それは彼女が聖人君子だからではなく、確固たるプロ意識の持主ゆえなのだと思う。どんな人格の相手でも、そこに至った状況など知らなくても、危険の中でも目の前の命の危機には手を差し伸べる。

いうまでもなくコロナ禍の社会状況と医療従事者にシンクロした描写なのだ。

プロ意識とは、「かくありたい」と自分に課する姿にどれだけ妥協なく添えるかどうかだと思う。

夏梅が憧れるフローレンス・ナイチンゲールは、献身的な看護だけでなく統計学を駆使して、医療のためのよりよい環境を勝ち取ろうとしたタフなネゴシエーターといえる。

フローレンス・ナイチンゲールは、「天使とは美しい花をまき散らす者ではなく、苦悩する者のために戦う者である」という言葉も残している。

夏梅もまたストイックに戦い続けている。そんな彼女のプロ意識に呼応して、同様に人を守るプロフェッショナルである警察の特殊部隊の面々は、最大の賛辞をMERの面々に贈るのである。

今回のエピソードにおいて警察もMERも弱者を守るために危険を顧みない現場に踏み込むことになるが、規律の厳格さの分だけ警察の判断は鈍く硬い。

その硬直した枠を「では警察官は死んでもいいのですか。みんな同じ命です」というピンポイントの言葉で、するりと外してしまう都知事のありようも興味深かった。

エンターテイメントのフィクションとはいえ、政治の役割というものについて考えさせられる一幕である。

これまでの1、2話で危機のシーンで鋭く高いピークを作って緩急で魅せてきた今作は、第3話では「重苦しい危機が延々と続く」という方法で私たちを魅了してきた。

おそらくこれからもあの手この手で週末終わりの1時間、私たちの頭を空っぽにして、手に汗を握らせて勇気づけてくれるに違いない。心して待ちたい。

TOKYO MER/TBS系で毎週日曜・夜9時~放送

過去のTOKYO MERドラマコラムはコチラから


[文・構成/grape編集部]

かな

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