【『最愛』感想 1話】 極限にそぎ落としたタイトルに込められた想い・ネタバレあり
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2021年秋スタートのテレビドラマの見どころを連載していきます。
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週末、金曜日の夜22時のドラマは重い。そして緻密である。
現在、この時間帯はTBSの金曜ドラマとNHKの同時間帯のドラマ枠『ドラマ10』がしのぎを削る。どちらの局でも、この枠の作品は良作が多く、ドラマ好きはどちらを見るべきか、毎期選択に悩むことになる。(おおむね片方をリアルタイムに見て、片方は録画になる)
とりわけTBSの金曜ドラマは、文芸ドラマ枠と表現したくなるような重めの傑作を生む枠である。
野島伸司が脚本を務めた『高校教師』『人間・失格』もこの時間帯だったし、この数年でも『Nのために』『コウノドリ』『アンナチュラル』と傑作の枚挙にいとまがない。
初回で描かれたのは『失われなかった頃の幸福』
今作『最愛』(主演 吉高由里子)もまた、TBS金曜22時の正統派ともいうべき重さと痛みと、物語として強烈な吸引力を持ちあわせた作品である。
まずは、物語全体の羅針盤ともいうべき冒頭の松下洸平のモノローグに引き込まれる。
抑えた声に滲む感情は時に優しく、深く悲しく、これは『すでに失われたなにか』の物語であることを最初に私たちに伝えてくる(松下洸平は、殺人事件の重要参考人となるヒロインの捜査にあたる刑事の宮崎大輝を演じる)。
それにしても、松下洸平の出世作となった朝ドラの『スカーレット』でも感じたが、松下の声は朴訥(ぼくとつ)とした方言と抜群に相性がいい。
そして初回ほぼすべての時間を割いて描かれるのは、陸上部のエースである大輝と、学生寮の明るい看板娘であるヒロイン朝宮梨央の、失われなかった頃の幸福である。
故郷の穏やかな景色も、古い家に差し込む柔らかい太陽の光も、全てが残酷なほどに美しい。
そんな無垢な幸福が壊されるきっかけになる禍々しい事件が、遠回しに、時にぼんやりとした描写で何度も差し込まれる。
このぼんやりとした表現の度合いが絶妙で、事件としての全体像は見ていればわかるものの、肝心の細部は全くわからない曖昧さ加減になっている。
完全犯罪として隠蔽しようと思えばできるような、そして誰が犯人でもおかしくないような、事件ものの仕掛けとして実に秀逸なのである。
喪失の予感に満ちた過去のエピソードの中、父親(光石研)を亡くした梨央を、離れて暮らす実母(薬師丸ひろ子)の元へ連れ帰るためにやってきた、弁護士・加瀬賢一郎を演じる井浦新が醸し出す安心感が唯一の風通しになっている。
いかにも仕事の出来そうな風体で現れつつも、香典をスッと取り出せずに慌ててカバンを探る人間くさい様子は、ほのかな可笑しみとともに視聴者をホッとさせるものだった。
金曜ドラマ×塚原あゆ子監督に期待
傑作揃いの近年の金曜ドラマの中でも、とりわけ記憶に残る名場面が二つある。
一つは『アンナチュラル』第5話。恋人を殺した犯人に、泉澤祐希演じる鈴木巧が直接制裁を加えて刺し殺そうとした瞬間に重ねて井浦新演じる中堂系が雪空を見上げるシーン。
もう一つは『MIU404』第2話。パワハラで苦しんだ挙句に上司を殺す犯人の加々見を演じた松下洸平が、夕暮れの富士山を背景に深々と頭を下げるシーン。
どちらも、このドラマを担当する塚原あゆ子の演出である。おそらく今回も、胸に突き刺さるような忘れがたい名場面を私たちに残してくれることと思う。
第一話のラストで、物語は一気に現代に飛ぶ。
ヒロインの梨央は会社を経営する裕福な母親に引き取られ、自身も経営者となっている。大輝と梨央、ふたりの人生はもう交錯しないかのように見える。
しかし、行方不明になった大学生の遺体が15年の時を経て発見され、更にその父親もまた、遺体で発見される。
一見どこにもなさそうな、新進気鋭の女性経営者と過去のものであった15年前の田舎での殺人事件を繋ぐか細く遠い糸は、遺留品にまぎれた受験の前夜に大輝が梨央に渡した大学合格祈願のお守りだった。
大切な人のためにと想いを込め渡した忘れることのないお守りが、その愛情が、細くても切れない糸として、深く閉じ込めた過去を開く。
『最愛』と名づけられた、サスペンスが始まる。
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最愛/TBS系で毎週金曜・夜10時~放送
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[文・構成/grape編集部]
かな
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