【『最愛』感想 3話】 会話の余白が描き出す複雑な感情・ネタバレあり
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2021年秋スタートのテレビドラマ『最愛』(TBS系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
第1話の無料見逃し配信再生回数が、名作揃いのTBSドラマの中で歴代1位(第1話無料見逃し配信の中で)を記録し、既に様々な考察が盛り上がっているTBS金曜22時から放送の『最愛』(主演・吉高由里子)。
第3話、いよいよ物語は回想メインから現在進行形の事件に踏み込んだ。
優れた連ドラのサスペンスでは、一つの謎が解ければそれに連鎖して次の謎が現れる。
一週間のインターバルを繰り返しながら視聴者を惹きつけるには、一つの大きな謎を長く引っ張るよりも、謎を小出しにしながら小さな解決と次の謎を紐付けていく方が有効である。
しかし今作の場合は、その『小出し』の面積が大きく、毎週「えっ、それもう分かっていいの?」と驚く。
もちろん、手の内が明かされた分だけ「何でそうなってるの?」と次の疑問もわいてくるので、自ずとドラマ自体も考察も盛り上がる。
それにしても3回まで見て実に隅々まで磨かれたドラマだと思う。
上記のようなストーリー展開も、演出が生み出す映像の美しさも、それぞれの俳優の魅力を活かした人物設定も素晴らしいが、個人的には余韻のあるセリフと会話の上質さが興味深い。
第3話の中でも、いくつか『気になる』会話のシーンをピックアップしてみたい。
見れば見るほど驚嘆のある『最愛』
まずは今回の序盤、ヒロインの梨央と刑事の宮崎大輝(松下洸平)がもんじゃ焼き店で交わす会話。
「東京名物、全部制覇するって言って」
「渋谷にギャル見に行こうって言ってたのは?」
この時点で、梨央の中では誰が何を言ったのかの過去の記憶は曖昧になっている。
それは多分、彼女の中で幸福な思い出は曖昧な塊のようなもので、一つ一つのエピソードというよりも、柔らかい手触りや温かさの集合体なのだと思う。
ちなみに、ここで梨央と大輝は向かい合って座る。
大輝に正面から顔を凝視されることを梨央は嫌がり、大輝が帰った後に店にやってきた弁護士の加瀬賢一郎(井浦新)は自然に梨央の隣に座る。
次は弟の優(柊木陽太)が失踪したときの梨央の慟哭(どうこく)。
宥(なだ)める加瀬を相手に、梨央は「わたしのせいで、優が幸せじゃなくなった」と泣く。「わたしのせいで優が不幸になった」ではなくて「幸せじゃなくなった」という言葉が印象的である。
あの夜、自分がしっかりしていれば、我が身を守れていれば、弟を今でも幸せな環境の中にいさせてあげられたのにという、梨央自身が被害者でありながら、あまりにも残酷で理不尽な悲しみである。
梨央はそんな断片にしかならない言葉で泣く以外、複雑で痛切な悲しみを他の誰に語ることも、共有させることも出来ない。
そして、事業説明会の騒動で梨央を刃物から庇って怪我をおった加瀬が、救急車の中で苦笑気味に呟く「給料に見合いませんよね」。
第2話で、加瀬は「この家では、わたしがあなたを守ります」と言ったあとに、慌てたように「梓さんから、そう言われているので」と、仕事の延長であるように誤魔化す。
加瀬の梨央への献身は、職務とそれ以上の感情の境界線を常に行き来しているが、その上で今回の冒頭、モノローグで「人に見返りを求めてはいけない」と信条を淡々と語った言葉があるからこそ、見合わない『給料でない』部分の大きさが垣間見える言葉である。
最後に、加瀬の治療を待つ病院で梨央と大輝が交わす言葉。
「今でも、走ってるの」という問いから始まり、それぞれの今の立場から不信のもつれを解くような会話である。
「本当に、友達として話せたらいいのに」と長いため息のあとに「本当に」とぽろっとこぼれた梨央の言葉が、本音で話せない苦しみと話したい切望を同時に伝えて胸に響く。
このドラマの現代パートでは、吉高由里子は常に低く抑え気味の声で抑圧のヒロインを演じているが、彼女の声が持つエモーショナルな魅力がこの会話では最大限に引き出されている。
ここで大輝はようやく梨央の横に座り、再会してから隣というスタートラインに立つ。
分からないなりに重苦しい過去から梨央を解放したい大輝と、過去に何があったかは関係なく今の梨央を守りたい加瀬。
現代で起きた殺人の謎、弟の失踪の理由に加え、梨央の『隣』をめぐる二人の男性。
最初の一回目は夢中になってストーリーを追い、二度目三度目で演技やセリフの微妙なニュアンスを確かめる。見るたびに驚嘆がある。
時間の注ぎこみがいのあるドラマである。
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最愛/TBS系で毎週金曜・夜10時~放送
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[文・構成/grape編集部]
かな
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