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【『ファイトソング』感想・2話】カシミヤのセーターのように、普通に見えて極めて上質ということ・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2022年1月スタートのテレビドラマ『ファイトソング』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

恋愛ドラマにおける、ヒロインの相手役ではなくて、ヒロインに片思いする二番手。

それを『当て馬』と表現するのに、ちょっとだけモヤモヤしてしまう。

「そんなに何かを当てなきゃ恋って走らないのかね」と思うけれども、ドラマとしてはストーリーの安定した展開と適宜盛り上がりのためには必要なのもわかる。

大体、マラソンだってペースメーカーがついて30キロ地点まで引っ張ったほうが好タイムが見込めるものだ。

連続テレビ小説『半分、青い』(NHK 2018年)、テレビドラマ『♯リモラブ』(日本テレビ系 2020年)、『オー!マイ・ボス!』(TBS系 2021年)と、いわゆる魅惑の『当て馬』を多数演じてきている間宮祥太朗だけれども、個人的には『ハムラアキラ』(NHK 2020年)の時のクールな管理官役が印象的だった。

出番は多くなかったが、品の良さと体温を感じさせない美しさはずっと記憶に残った。

彼のあの役を見て以来、『本気で勝負に出て、ゴールテープを切る姿が見たいな』と、ぼんやりと思っていた。

それぞれの理由を抱え、期間限定の恋愛がついに始まる

『ファイトソング』(TBS系火曜22時 主演・清原果耶)は、きっとそんな間宮祥太朗の魅力をフルサイズで堪能できるドラマになると思う。

初回では、ヒロインの花枝(空手の代表候補を事故の怪我で断念。更に将来的に失聴の可能性のある病を抱えている)と、おそらく相手役になるのだろう芦田春樹(間宮祥太朗。一発屋の落ちぶれたミュージシャン)の、それぞれの苦境を淡々とと描いていたけれども、今週の第2話で二人はそれぞれの理由を抱えながら期間限定の恋愛をしようと決心する。

小説、コミック、演劇、映画、ドラマ。

フィクションとして恋を描く方法は沢山あるけれども、今作『ファイトソング』が描く恋は、映像作品ならではのときめきと切なさに満ちている。

こればっかりはどう言葉を尽くしても説明しようもない。「とにかく見て下さい」と懇願するしかない。それほどに細かく作りこまれた一瞬の連続なのである。

もちろん、可能ならば配信等駆使して、初回から見てもらいたいけれども、とにかく2話、いや2話の開始から30分の春樹のお詫びメールあたりから、いや特に35分すぎに花束を持って春樹が花枝を訪ねてくるシーンからを、是非その目で見てもらいたい。

花枝へのお詫びのメールのモノローグに重なる春樹の物憂げな表情も、会いたくて衝動的に駆けだして、でも会えなかったことに思いもよらず落胆してしまう花枝の表情も、椿の花束を差し出す春樹と、受け取る花枝のぎこちない遠い距離も、付き合ってみようと思うと告げられて数秒噛みしめて「わあ」と照れくさそうに呟く春樹の笑顔も、それを見る花枝の曇りのない笑顔も…。

ミニマムに削ぎ落とされたセリフと、ベストの間合いを掴む俳優二人の演技と、二人の間で細かく切り替わるカメラの映像と、せせらぎのような美しい劇伴音楽と、全てが寸分の妥協もない精密さで組み立てられた最高の『恋の瞬間』である。

更に、これだけの細心さをもって組み立てられながら作為の繋ぎ目はどこにもない。

細かいパーツの組み合わせでありながら、そこにあるのは触ってもどこにも継ぎ目のない球体のような美しく繊細な恋である。

これだけの最高の要素が丁寧に組み立てられて、「なんかエモい」「よくあるラブストーリーっぽいけど、何だかいい」に辿りつく。

普通っぽく見えるけれども、不思議と惹きつけられる。

過去にもどこかで見たような話なのに、これは目が離せない。名脚本家・岡田惠和だからこその到達点だと思う。

もうひとつ、通低音としてこの作品を深く魅力的にしているのは清原果耶のしなやかな強さである。

NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021年)で、温和ながら芯の強いヒロインを演じ、坂口健太郎演じる『菅波先生』との恋が朝ドラファンを熱狂させたことは記憶に新しい。

清原果耶が持っている、どんな風にも折れないしなやかな強さは、拗らせて生きる男の息苦しさ、頑なさを容赦なく剥ぎ取って、彼らを悩み多き愛嬌のある存在に昇華する。

拗らせた男を、清原果耶はその自然体で更に輝かせるのである。

事前のコンセプトを聞いて食わず嫌いした方も、初回は見たけれども、もうそれでいいかなと思われた方も、ちょっと興味はあるけどまだ見ていない方も。

是非、今作の2回目以降をその目で見てほしい。

一見平凡に見えて、至極上質ということの答えの一つが、きっと見つかると思う。

     

[文・構成/grape編集部]

かな

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