【『初恋の悪魔』感想1話】愛おしくも厄介なものに捕まった・ネタバレあり
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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2022年7月スタートのテレビドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ系)の見どころを連載していきます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
これは、厄介なものにひっかかっちゃったなあ。
45分の第1話の後、率直な感想はこれである。
見たが最後、夏が終わるまでこのむずむずするような、背中がチリチリ冷えるような、かつてこのドラマの脚本家が生み出した名作ドラマ『カルテット』(TBS系 2017年)の言葉を借りれば『みぞみぞする』、不安定で魅力的な物語に繋がれたままなのだ。
そう簡単に、安易な解答なんかくれないだろうなあ。
わかりやすく面白い、一話ごとに解放感をスタンプカードみたいに押してもらえる、そんなドラマが主流の令和のいまだというのに、坂元裕二が書く脚本は最後の章、最後の一文まで読まねば物語を捉えられない複雑な文芸小説のようだ。
そんな厄介なものと分かっていて、何故私は嬉々として土曜の22時にテレビの前に座るのか。
当たり前だが、一義的には面白いからだ。
そして坂元脚本のドラマは、それを見た人がこれから生きていく時間の中で、きっとキラキラと光る石に変わって記憶に残るからだ。
停職中の問題行動ありの刑事・鹿浜鈴之介(林遣都)、冴えない警察の総務担当・馬淵悠日(仲野太賀)、同じく経理担当・小鳥琉夏(柄本佑)、生活安全課の刑事・摘木星砂(松岡茉優)。
警察署内にいながらその事件の捜査をする権限のない、いわばはみ出し者四人が、勝手に事件を考察・解明していくうちに更に大きな運命に巻き込まれていく『初恋の悪魔』(日テレ系・土曜夜22時)。
初回の『事件』は、病院内での少年の変死。状況としては飛び降り自殺の可能性が濃厚だが、同室の少年が「先生に殺された」と証言し、その後に危篤状態に陥ったことで事件は微妙に複雑なものになってしまった。
自殺の路線で簡単に終わらせたい刑事課の中で、ただ一人、その流れに乗れない心優しい新人刑事・渚(佐久間由衣)の為に、4人は少年の転落死の謎を追う。
おそらく登場人物の名刺代わりであろう初回を見ていて、層と辺境の物語なのだと思った。
警察署に勤めながら総務課という地味な部署にいる悠日は、とかく下に見られがちで、辛くないのかと上司に問われ「負けてる人生って、誰かを勝たせてあげてる人生ですよね」と達観した返事をする。
同じく経理課にいる琉夏は、362円の領収書の精算を適当に処理することが出来ず、刑事課の面々からは煙たがられている。
スポーツチームにおけるレギュラーと控え選手のように、あるいは職業における営業担当と補助する事務のように、社長の業務を補佐する秘書のように、何かの成果のために、効率的に誰かを勝たせるために、誰かが補助の役割を担う。
それは上下に伸びる層であり、中央と辺境でもある。
確かに社会はそうやって成り立つのだけれども、琉夏が自らを辺境にある者として達観している悠日に言い放つ一言が印象的だ。
「前向きなのは結構だが、社会を悪くする前向きもあるんだよ」
こじゃれて飄々としたセリフ回しに潜む毒に、しびれる一言である。
1人の少年の死をめぐる4人の考察は散々迷走し、時に真相の欠片を拾いながら丁寧に時間軸を追って、その真実を明らかにする(その迷走が、それぞれの個性をよく表していて興味深い)。
事件の真相は、少年が恋していた、同じ病院に入院している少女の術中死が引き金となった自殺だった。
1人の大物芸能人が救急車で運びこまれた結果、その手術に医者が駆りだされ、当初術中だった少女は放置されて死んでしまう。
2人の少年は大人たちの中で命が選別されるさまを見ていた。
片思いしていた少女を失った悲しみと、自分の大切な存在とそしてある意味自分たちもまた、選別された残酷なその場において『選ばれない』存在なのだと知った痛みに、少年は純粋さゆえに打ちのめされてしまう。
歪みはいつも1番弱い人たちに押し寄せて彼らを押しつぶす。
層は下層で潰れ、中央から辺境に向けてトラブルは押しやられる。
そして、刑事の姿を見てすすり泣く医者の姿に、彼もまた本意ではなかったのだということや、せめてもう1人執刀出来る医者いなかったんだろうかとか、どうにも昨今の医療の現状を思い返してしまい、ほろ苦い気持ちになってしまうのだった。
この回のラストで、兄を殉職で失った悠日も何かそのことで問題を抱えていること、鈴之介は星砂への執着を拗らせていること、その星砂は二重人格であるような示唆が一気に描かれる。
主人公たち4人はもちろん、それ以外も初回にして登場人物に関する情報量はすさまじいが、そのほとんどがまだ浮遊したまま、互いの関連は見えてこない。
このドラマを見はじめた私たちの手の中に、既に原石は渡された。その石を土曜日の22時に画面を見つめながら、手のひらの中で磨いていく。
夏が終わり秋が訪れるその頃に、きっと私たちは名脚本家が紡いだ光る数々の言葉と、色あせない物語を手にしているはずだ。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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