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【『大奥』感想3話】堀田真由の清冽さが描く痛みのリアル

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2023年1月スタートのテレビドラマ『大奥』(NHK)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

よしながふみ原作の『大奥』1巻は、丸々一冊、導入としての吉宗編である。

今回のドラマの初回同様に、爽快な展開かつ吉宗(冨永愛)の魅力的なキャラクターで一気に読者を引っ張り込む。

だが2巻が刊行されて読んだ時、これは男女が逆転しているから視点が面白いとか、思考実験として刺激的だとか、そういう単純なものじゃないとぞわっとしたのを思い出す。

これは閉塞された環境で引き起こされる人間のあらゆる業の物語で、現代に通じる普遍的な痛みと、その解放を模索する物語だと。

今回のNHKドラマ10での『大奥』映像化もまた、その原作の持つ深みを裏切らない誠実さで製作されていることを3話で確信した。

堀田真由の演技が光る

前回の2話では万里小路有功を演じる福士蒼汰の魅力が特に光ったが、3話では堀田真由演じる家光の演技に目を奪われた。

堀田真由といえばヒロインの友人であったり姉妹であったり、様々な役を出すぎず引きすぎず、きっちり演じる職人肌の女優というイメージがあった。

だが今回、人生を奪われて、ただ血筋を残すための生を強いられている少女の哀しみを複雑な緩急をつけて演じきっている。

男女の性別どちらもあるというよりも、どちらの色もない透明感で、1人の人間として尊厳を奪われたものの痛みと怒りに満ちていた。

家光と有功のかわいがっていた猫の死を契機に、2人のひとときの穏やかな日々は一気に緊張感をはらむことになる。

死んだ存在に対して経を唱え弔うことが、哀しみの淵から日常への回帰を促すと語る有功に、「これまで穏やかな日常など一度たりともなかった者には回帰する先などない」と少女は激する。

自分に降りかかる理不尽な運命を他者への暴力に転化するより他に逃げ道を見いだせない少女に苛立ちながらも、有功もまた自分の中に理不尽な運命への怒りが消えずにあり、それが『八つ当たり』という形で共鳴を起こしたと自覚する。

決別しようとする間際、少女の過酷な経験を知らされた有功は、彼女の壮絶な過去の痛みや怒りを包み込んで、この閉ざされた大奥という空間で共に生きることを選ぶのだった。

※写真はイメージ

今回、ごく狭い範囲に閉鎖されて、未来の選択を奪われた人々が、それぞれどんな形で逃避し、生きる道を選び取るのかが興味深い。

家光の側室候補の男たちのように、序列にこだわり自分より弱い者を見下そうとする者。

玉栄のように、大切な存在を守ろうと奔走して自らを奮い立たせる者。

そして有功のように、慈愛と赦しで自分が今ここにある意味を求める者。

少女の無理矢理切られた髪と奪われた本当の名前は、傷つけられた身体と魂の尊厳の象徴であった。

彼女が奪われてしまった長い髪を自らが身につけ、似合わぬ姿を恥じずに晒すことで有功は彼女の心身の傷に共感しようとする。

千恵という本当の名で呼びかけることで、彼女に尊厳の灯火をともす。

互いの傷ついた魂を寄せ合い結ばれた2人を、その幸福な時間を今はただ見守っていたいと思う。

今回の最後で春日局(斉藤由貴)が有功に宣告し、次回予告でも仄めかされた通りに、人の業をこれでもかと描きこむこの名作は、そんな「めでたしめでたし」を簡単には許してはくれないのだが。

ちなみに終盤にちらりと出てくる吉宗と村瀬のやりとりで、村瀬が記録に書きこんだ「それは二羽の傷つき凍えた雛が、互いに身を寄せあうがごとき恋」の一文は、2人が固く抱擁しあう、原作全体を通しても名場面中の名場面の美しいト書きである。

※写真はイメージ

映像化にあたり、セリフとして差し込むことは難しくても、何とかどこかで視聴者に伝えたいと制作が願ってくれたものだと思う。

今回のドラマ化にあたって、御右筆の村瀬(岡山天音)は、原作よりユーモラスで魅力的な人物として描かれている。

「これでは記録というより読み物ではないか」とロマンチックな文章に半ば呆れる吉宗相手に、へへっと照れ笑いする老いた村瀬(石橋蓮司)の様子が岡山天音の若い村瀬に重なり、思わず笑ってしまった。

世代も、本来なら容姿も違うはずの俳優ふたりが、ぴたりと一本の線に重なる妙味である。

そんな村瀬老人を見ながら、閉鎖されて未来の見えない集団の中で自らを保ち生き抜く手段として「傍観して目前の物語を楽しみつくす」というのも、中々に有効な手段かもしれないな、と思うのだった。


[文・構成/grape編集部]

かな

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