逆転に次ぐ逆転劇で、テレビドラマ『キャスター』（TBS系）は、ひとまず幕を閉じた。

初回から常に主人公・進藤壮一（阿部寛）は、飢えた肉食動物のようなハングリーさで真実を仕留め、周囲の人々の感情を嚙みちぎってきたけれども、最後の最後、彼でも暴けない聖域はあった。

その聖域は、もはや遠くなった昭和から、令和の今もまだ、地下水脈のように暗く冷たく繋がっている。

視聴率低下に悩む長寿ニュース番組・ニュースゲートに、テコ入れとして呼ばれたのは、孤高のキャスター・進藤壮一。

進藤は型破りな取材と進行でニュースゲートのスタッフを振り回しながらも、次々とスクープを獲得して番組を立ち直らせる。

番組演出の崎久保華（永野芽郁）や本橋悠介（道枝駿佑）ら若手スタッフは、進藤のやり方に戸惑いながらも、彼らなりに考えながら報道のあり方を目指すようになっていく。

しかし進藤の強引な取材と報道への執念は、彼自身の父親を失った過去、４３年前の自衛隊機の墜落事故と深く関わっていた。

十中八九、進藤の父・松原哲（山口馬木也）を殺害した当事者だと予想されていた国定（高橋英樹）が、実は松原の信念を受け継いで秘密を守り通していたという最後の着地には非常に驚かされた。

しかし思えば、今作を最初から貫いていたのは、戦中戦後に生まれた世代が退場するいま、その後を受け継ぐ団塊ジュニア・ロスジェネ世代はどんな生き方を選ぶのかという問いかけだった。

その戦中戦後世代の象徴が、羽生剛（北大路欣也）や、国定のように清濁を併せ飲む、沈黙の男たちだったのだろう。

国防とエネルギー政策というこの国の巨大なねじれを目前に、真実を暴く従来のやり方は成り立たないと悟り、進藤は開きかけた真実の箱を静かに閉じる。

大衆相手に何を報じるか、あるいは報じないか。線引きに正解はないにせよ、選んだ責任は自分で負ってきた、キャスター・進藤壮一らしい撤退だったと思う。

今作を通して、改めてこの国を代表する俳優として阿部寛の圧倒的な存在感は素晴らしかった。

どんなに展開が不安定でも、先行き不透明でも、阿部寛がニヤリと笑えば何とかなると思えてしまう。さすがの『ミスター日曜劇場』だった。

その大黒柱が盤石だからこそ、どのエピソードもゲストやバイプレーヤーの躍動が活きていた。

最終話では政治家・宮澤喜一の孫である宮澤エマが演じる市ノ瀬をフィーチャーして、強烈な血縁の功罪に悩むキャリア女性を描いたのは、最後にそう来たかと唸らされた。

個人的には、編集スタッフを演じた木村達也のチャーミングさと、週刊誌の記者を演じた加治将樹のユルい怪しさがワンポイントの癒しで、いつも楽しみにしていた。

そしてやはり、道枝駿佑の演技をもう少し見たかったなと、もどかしいような気持ちで思う。

一番印象に残っているのは６話、臓器移植のエピソードで、華に嘘をつき通してタクシーから空港に降り立った場面「俺は華さんを犯罪者にしたくない」の淡々とした口調だった。

優しさと諦めと悲しみが複雑に絡み合った、何ともいえない良い表情だったと思う。

３話のレビューでも書いたように、アイドルとして活動しながら俳優としてキャリアを積むのは、時間的にも仕事の選択肢としても、制約の多いことだと思う。

それでも一つ一つの役を演じていく先に、これぞ道枝駿佑の演技だという個性を見つけてほしいと願っている。

優しいけれども決して脆くはない、透き通っているけれど薄っぺらくはない。その魅力が輝くこれからの成長が楽しみだ。

ドラマは最終回を迎えたが、一方で続編に繋がりそうな大きな『宿題』も残った。

今は、ばらばらな進藤と彼の家族の幸福はどこに向かうのか、またいつかどこかで語られる機会があれば嬉しい。

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[文・構成／grape編集部]