世界は何者もジャッジしない 『ちょっとだけエスパー』最終話
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- 出典
- テレビ朝日






SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。
2025年10月スタートのテレビドラマ『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)の見どころを連載していきます。以下、ネタバレが含まれます。
かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。
歴史の本を読んだり、歴史に関するテレビ番組を見たりしているとき、「なぜこんなタイミングでテロや事件が起きてしまうんだろう」と驚くことがある。
一つの事件や死をきっかけに、歴史の流れが止められなくなるように見え、あれがなければ、この人が生きていたら歴史はどうなっただろうとつい考えてしまう。
だが、そうやって少し考えてから、そういった契機も大きな流れの中では『遅かれ早かれ』なのではないかと思いなおす。
歴史の大きな流れが簡単には変化しないことを『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)の中では慣性の法則という言葉で表現している。
結局大きな流れが変わらないのなら、私たちの日々の喜怒哀楽に意味はあるのかなと感傷的になってしまうのだけれども、『ちょっとだけエスパー』の最終話を見て少しだけ救われた気持ちになった。
謎の薬・Eカプセルでエスパーの能力を身につけた文太(大泉洋)たちビットファイブのメンバーは、ノナマーレを解雇されて再び無気力なその日暮らしの生活に戻ってしまった。
一方、十年後に死ぬ自分の未来と、それを阻止しようとして他人を犠牲にして暴走している兆(岡田将生)の思惑を知った四季(宮﨑あおい)は絶望からEカプセルを大量に服用し、驚きの行動に出る。
現代から複雑に分岐していく未来と、繰り返されるフィードバック。タイムパラドックスの検討と対策。
序盤のほのぼのした展開も楽しかったが、ラストにむけて一気にSF濃度が高くなっていく展開にわくわくした。
そして、何よりも『ちょっとだけエスパー』はディープなラブストーリーだった。
愛する女性の命のために、何万人死んでも構わないと悪魔に魂を売って、何一つ後悔のない男。
たった半年間の愛が一生分だったと言い切り、愛する人に存在そのものを忘れ去られても、あなたが生きる世界を愛すと断言する男。
そんな2人の男と、世界のために心中も辞さない愛情深い1人の女の、漬物石どころか隕石のように重い、愛おしいラブストーリーだった。
今回、地味だけれども好きなセリフがある。かつて愛した男を憎んで殺そうとした円寂(高畑淳子)を止めて、文太が呟いた言葉だ。
「おれたちみんな、愛し損ねちゃったんですよ」
愛せなかったではなくて、愛し損ねたという言葉。
そこにはまたやり直せる、愛はちゃんとあって、今度は他の方法で表現したらいいんだと、そんな文太らしさを含んだニュアンスに思えたのである。
そして物語を通して忘れがたいセリフは、「世界は誰のこともジャッジしない」という文太の力強い言葉だった。
職業、性別、年齢、人種、能力。そして生産性やコストパフォーマンスという薄っぺらい言葉で人は容易にカテゴライズされてしまう。
だが本来世界は何者もジャッジしない。そこにあるのは、単に選ぼうとしている人の意思だけだという、的を射抜く矢のような言葉だ。
世界は誰のことも選別しないという言葉を私たちに届けるために、文太は飛び降り自殺寸前、何かあれば愚痴ばかり、優柔不断で右往左往、でもどんな人の痛みや悩みにも寄り添うサラリーマンになったのだなと思った。
ラストシーン、無意識に「ぶんちゃん」と呟く四季を振り向くことなく、唇を引き結んで歩いて行く大泉洋は最高に格好よかった。
この世界は生きるに十分値すると信じさせてくれる愛情深い女・四季を演じた宮﨑あおいも、その四季を救う為に冷徹な狂気に取りつかれた岡田将生の佇まいもまた、見事だった。
3人の底力が、複雑に絡み合うストーリーを支える土台だったと思う。
そして優秀なのにどこか抜けている市松(北村匠海)、あざとく可愛い紫苑(新原泰佑)、クールでタフな九条(向里祐香)、難しいことは放棄して犬と遊ぶ桜介(ディーン・フジオカ)、リモコンをダイナマイトみたいに腹に巻いて突撃する円寂、もはやナウシカのごとく虫と話す半蔵(宇野祥平)。
みんなちょっと欠けていて、それが何倍も愛おしかった。
物語の最後に、市松はEカプセル自体ではなく、Eカプセルの副作用を治療する薬を作ると宣言する。
そうか、大きな流れは変わらないとしても、その流れをよりよいものにする選択は現在の私たちに無数に委ねられているんだと思えるいいシーンだった。
このドラマが見せてくれた世界観は、いつか私たちが人生の岐路を選ぶときに背中を押し、あるいは肩に触れる天使の手になってくれるはずだ。
素晴らしいドラマを届けてくれた脚本、製作スタッフ、俳優陣に心から感謝の拍手を贈りたいと思う。
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[文/かな 構成/grape編集部]
かな
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