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【『最愛』感想 5話】愛情を触媒に広がり続ける混沌・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2021年秋スタートのテレビドラマ『最愛』(TBS系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

そこに水があると思って近づけば、それは炎天下で水に見える陽炎だった。

『最愛』(金曜日22時TBS系 主演・吉高由里子)は、そんなドラマである。

15年前の一人の大学生の失踪事件と、その大学生を探し続けていた父親が殺害された現在の殺人事件。二つの事件を往還しながら、私たちはわずかな手掛かりの『水』を求めて右往左往している。

中だるみとは無縁の5話、恒例の冒頭のモノローグは主人公・真田梨央(吉高由里子)の弟で、失踪していた朝宮優(高橋文哉)だった。

この特異なサスペンスにおける要、そしてブラックボックスは怪我の後遺症で『興奮すると記憶が飛ぶ』症状を抱えた、この孤独な青年である。

過去の事件でも、現代の殺人でも、その純粋さと愛情深さに隠れた第三者が見え隠れしている。だがそれが同一人物なのか別人なのかも未だに分からない。

前回のラストで二つの殺人の犯人は自分だと告白した優だが、今回改めて『記録』が残っても優自身の『記憶』が戻っているわけではないと明らかになり、またしても真実は見えなくなった。

一度は梨央の前から姿を消した優が密かに梨央の元に戻ってきた理由が、姉が社長になったと知り、守らねばならないと思ったという事実が切ない。姉は弟のために薬を作るべく経営や出世には興味がなさげでありながら社長に就任し、弟はそんな姉を守らねばともう一度戻ってくる。

その結果、共に再び事件に巻き込まれる。お互いを守りたいと想いあうことが、逆に危機を引き寄せているかのようだ。

今回のラストで、最初の失踪事件直後に亡くなった二人の父親である朝宮達雄(光石研)のパソコンに、達雄自身の犯行告白動画が残されているのが見つかる。それは明らかに『いつか見つけてもらう日』のために残された嘘の告白の動画である。

死後に自身のパソコンが誰かに捜索される時、それは愛する子供たちに失踪事件の嫌疑がかかっている時だと予想して残された、父親が子供たちを必死に抱きしめるように守る動画である。

思えば、この物語が現在になって動きだす契機もまたひたすらに子を探し求める執念にも近い一人の父親の愛情だった。物語のスタートそのものが、何もかもを暴いてでも探そうとする親の愛情と、嘘をついてでも守ろうとする親の愛情の戦いなのである。

バイプレーヤーの配役にも注目

ここまでに5話、毎回押しつぶされそうな圧の高いストーリーの中で、脇を固めるバイプレーヤーの小技の効いた演技も見応え充分である。

世間的に、主人公を手助けするようなフレンドリーな役柄が印象深い及川光博に、ヒロインと敵対する冷徹な男を、華やかな女性らしさを発揮する役どころの多かった田中みな実にフェミニティの全くないドライなジャーナリストの役を、主に声を主戦場にしてきた津田健次郎に堂々たる叩き上げの警視庁捜査第一係長の役を。

いずれもエンターテインメント好きを、にやりとさせるような味のある配役である。

個人的には松下洸平演じる宮崎大輝とコンビを組む、桑田仁美役の佐久間由衣が良いと思っている。

女性の刑事として、癒し系でもなくギスギスもせず、べたつくでもなく尖るでもなく淡々と仕事に向かう。それでいて観察眼も鋭く有能なこともわかる。

コンビの大輝とも連携して仕事をしているが、大輝の様子に納得がいかなければ厳しく追求もし、臆せず上司にそれを告げる厳格さも持ち合わせている。越境というよりも、最初から境界線のないような身軽さ、清冽さが印象的だ。

毎話、示唆に富む美しいシーンを見せてくれる塚原演出だが、5話で目に止まったのは大輝が大学時代のチームメイトである長嶋(金井成大)に、昔馴染みにアリバイを聞いて回るような仕事は嫌ではないかと問われ「嫌な仕事だよな」と、さほど嫌とも見えないような表情で応えるシーンである。

「(仕事に)向いてんだろ」とさらに被せられ、「向いてるよ」と即答する大輝の背後で照る太陽が悲しいほどに眩しい。孤独を善しとして、独りで苦しみと対話しながら走る苦しくなってからが強い選手たる男の有りようが良く表れたシーンだと思った。

大輝と長嶋との会話の中で、昔馴染みに聞き込みをする時に大輝がもう飛騨弁ではないことの違和感が一瞬語られる。

しかし、引き寄せてクリームがべったりとシャツについたあの瞬間、信号待ちの背中越しの「お前やないってこと、俺が証明する」そしてそして、陸上部の寮で梨央と優の二人に「好きやった」と語りかける時。

ごく自然に宮崎大輝は飛騨弁を話す。その軸足はどこにあるのか、言うまでもないと思う。

旧札500万の出どころ、真田グループのペーパーカンパニーの謎、拘束された橘しおりの行方。そして15年前、遺体を埋めたのは果たして達雄一人であったのか。

まだ点は点のままそこにある。繋がり始めるのは、これからである。

最愛/TBS系で毎週金曜・夜10時~放送


[文・構成/grape編集部]

かな

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