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【石子と羽男 第3話 感想】『許されざる罪』を描いた第3話 残酷な結末から見えたもの

By - grape編集部  公開:  更新:

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Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。

2022年7月スタートのテレビドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)の見どころや考察を連載していきます。

空を見上げる時間すら曖昧で無駄なひとときと感じてしまうぐらい、誰もが生き急ぐ現代。

最近は、その作品の中身ではなく、表面が重視されることが多くなってきたように思う。そして『ファスト映画』もその一種だ。

反省の色が見えない依頼人

パラリーガル・石子(有村架純)と弁護士・羽男(中村倫也)のコンビに『国選弁護』の依頼が舞い込む。

国選弁護とは、資金不足などで弁護士を雇えない人に対して、国が代わりに指定するという制度である。

羽男は名を売るチャンスだと意気込み、早速接見に向かうが依頼人の口から飛び出したのは衝撃の言葉だった。

「ファスト映画の何が問題なんですか?」

今回の依頼は、映画を10分に短く編集した『ファスト映画』を動画サイトに無断アップロードし、著作権法違反で映画会社から告訴、逮捕された、映画監督を目指す大学生・山田遼平(井之脇海)の弁護。

初めは周りに映画を共有するために投稿していたが、誤って通常公開すると再生回数がぐんぐん伸びた。

その後、次々ファスト映画を投稿し、著作権法違反の罪で逮捕されたのだ。

しかし、後悔していると思われた遼平は、少しも反省していなかった。

金儲けのためではないし、映画離れが進む中で、見た人が「映画を好きになった」「時間がないとき助かった」と感想が寄せられると、自らの罪を正当化する。

確かに今はコンテンツの大量生産、大量消費の時代であるが、娯楽に割ける時間はそう多くはない。それは大人だけではなく、子どもも同様だ。

しかも話題の移り変わりは激しく、流行に置いてかれまいと、物事のあらすじだけ理解できればそれで満足してしまう人もいる。

度々話題に上がる作品の『倍速視聴』もその例で、じっくり誠実に作品と向き合う時間は重視されない傾向にある。

しかし、ファスト映画は断固として許されるべきものではない。羽男は少しも反省しない遼平の言い訳や法廷での態度に手も足も出なかった。

事件が思わぬ場所に飛び火

そんな中、新たな事件が巻き起こる。

名前が似ているため、ファスト映画を投稿したと誤解された山田恭兵監督(でんでん)がSNSで炎上していた。丁度、新作映画公開前というタイミングだ。

そんな山田監督のファンである大庭(赤楚衛二)は、石子を誘って最新作『穢れし曳航』の舞台挨拶を見に行く。しかし、炎上の影響を受けたのか、客足は乏しかった。

そしてさらにひどい事態へと発展し、最新作のファスト映画がネットに出回った。

「売名行為」「自作自演」、書き込みは根拠のない誹謗中傷で溢れた。ネットは話題性があり、一度燃えたものが何よりの好物だ。

事実を知らず、袋叩きにする者ばかりだ。

この状況を知った石子は、「山田監督を手助けすることで、監督のファンである遼平との関係の潤滑剤になり得るのではないか」という父・綿郎(さだまさし)の助言を受け、監督に弁護士を紹介することにした。

そして石子はその夜、遼平にそのことを相談してほしいと羽男にお願いするため、電話をかける。

すると、いつもは他人に一切の興味もなさそうな羽男が突然、石子に弁護士を目指す理由を尋ねてきた。

「父親の影響?」と聞く訳には、羽男が法曹一家生まれであることが関係しているように思える。

姉・優乃(MEGUMI)は検事、父は名高い裁判官。羽男は記憶力の才能を買われ、昔から「できる子」と言われ続けた。

父の目の輝きはいつも才能への期待だけで溢れ、羽男は弁護士にならざるを得なかったのだ。

それとは反対に石子は、自分から父の姿に興味を抱いた。依頼者の心の棘を抜き、再出発のお手伝いができる弁護士に憧れたのだ。

それもあり、人の些細な変化に気づける石子は、羽男の普段とは違う振る舞いを心配する。

二人は顔を見合わせれば言い合いばかりする凸凹コンビだが、電話越しには和やかな雰囲気だ。

「人に物を頼むときはなんていうのかな?」という、いつも通りの上から目線な感じと、優しく笑う羽男のギャップも垣間見えた。

そして「おやすみなさい」という石子の言葉に少し驚いた表情をする羽男。

『才能』としてではなく、『一人の弁護士』として必要とされている実感が、羽男の中で形づき始めていた。

そして依頼を諦めかけていた羽男だったが、フォトグラフィックメモリーの能力で、ファスト映画内で制作陣しか知り得ない未使用のカットが使われていることに気づく。

石子はそれを山田監督に伝えに行くと、監督は既に制作スタッフ・諸星(今井隆文)であることに気づいていた。炎上した原因でもあるファスト映画という罪に手を出してしまったのだ。

監督は、諸星の再出発の芽を摘まないよう、訴えは起こさないことを決めた。

見物人だった『私たち』が『当事者』へと変わる瞬間

そして残るは遼平だ。

何も聞き入れない遼平に、石子は罪と向き合ってもらうための秘策を思いつく。

それは、山田監督の最新作のファスト映画を見せることだった。

接見に訪れた羽男に、動画を予告なしに見せられた遼平は、「こんな編集をされたら、よさが伝わらない」「本編を見る楽しみを奪われたも同然」と激怒する。

そんな遼平に、羽男は一言。

「それがあなたのやっていたことなんですよ」

最新作は上映打ち切りとなったが、映画を見ずに誹謗中傷する人、ファスト映画だけ見て評価する人で溢れた。

たった10分の動画だけで映画を『見た気になる』のだ。

これは中身までは知ろうとしないまま、記事の見出しだけで意見し、判断することと同じ、現代の悪き風潮だ。

罪とは知らずに、これは誰かのためになっているという自己中な正義感。

ゼロから長い時間かけて創り上げた作品を一瞬で潰し、関わる全ての人を苦しめる行いに知らぬ間に加担しているのだ。

「あなたが加担した、ファストの世界が、どれほど罪深いものか。少しはわかっていただけましたか」

いつもの石子と羽男の掛け合いが、この台詞で重なり合う。その声は右から、左から、視聴者を包み込む。

今この一人の少年の物語に触れるただの『見物人』だった私たちが『当事者』だったみたいに…。

『石子と羽男』第3話が描いた『許されざる罪』

裁判の結果、執行猶予がつき、出所した遼平は、その日、山田監督に土下座し、謝罪する。

「また映画に関わって生きたい」と思う遼平。彼が映画を愛する心に嘘はないだろうし、切った豆苗もまた伸び始めるように、一度ゼロになったとしても、人は何度だってやり直せる。

今作は、そうしたやり直したいと願う人の声にも寄り添ってきたのだ。

山田監督に肩をたたかれ、赦しの言葉が返ってくると期待した表情で顔を上げた遼平に告げられたのは、尊敬する監督からの、何よりの制裁の言葉。

「未熟で申し訳ない、どんなに謝罪をされても、受け入れることはできません」

一度間違えてしまったことを無しにはできない。

今は法律以外にも社会的制裁を受け、そしてデジタルタトゥーとして一生治らない傷を負う。

だがその背景には、それ以上に傷ついた者たちがいる。

大きな声を上げる者たちに隠れた、声を上げられない多くの者たち。

今作の『声をあげることが大切だ』というテーマの中で、今話が描いたのは『許されざる罪』。

一人の青年の悲しい結末は残酷でもあった。だが、ファスト映画が、縮めた時間に詰まった誰かの大切な時間を奪う行為という揺るがない姿勢を貫いたことに大きな意味がある。

誰もが忙しなく生きる時代。無駄や曖昧な時間が淘汰される時代。

「最近、空見上げる余裕もなかったな」

羽男のひとことが、今、どう響いて聴こえるだろうか。

『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』/TBS系で毎週金曜・夜10時~放送

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[文・構成/grape編集部]

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